▼肉屋
シーン……
女騎士「そんな、バカな」ハァ……ハァ……
女騎士「なぜだ……なぜ誰もいないんだ?」
女騎士「机や棚は空っぽだし……どこにも人影がない……」
女騎士「なんてことだ……嘘だろ……」
へなへな……ぺたん……
女騎士「くそっ! あいつめ!」
女騎士「全力を尽くすと言っていたではないか!」
女騎士「ハハッ……私もバカだな」
女騎士「あのBSを見たときに、分かっていたではないか。もとより経営再建などムリだったのだ」
女騎士「銀行家さんに謝ろう……」
女騎士「そして、この町を去ろう……」
女騎士「30万Gなど、私は一生かかっても──」
???「──あら、帰ってたの?」
黒エルフ「手紙の一通でもよこしてくれたらよかったのに」
兄妹「「おかえりなさい!」」
女騎士「……お前たち、何をしてるんだ?」
黒エルフ「今月は働きづめだったもの。今日は臨時休業にしたの」
女騎士「臨時休業」
黒エルフ「そんなことより、このジェラート食べる? 甘すぎなくて美味しいわよ?」
女騎士「……」
妹「そうだ! お兄ちゃん、あれを渡さなきゃ!」
兄「うん! 女騎士さん、受け取ってよ」
女騎士「この革袋は……」
兄「5千Gだよ。銀行家さんに返してほしい」
女騎士「いいのか、これを受け取っても? 買掛金を支払うお金は残っているのか!?」
妹「安心してください。買掛金を支払っても2千Gくらい残る予定です」
兄「こんなにお金を残して月末を越えられるのは初めてだよ」
女騎士「なんてことだ……」
黒エルフ「ちょっとしたお祝いも兼ねて、3人でジェラートを食べていたの」
女騎士「……」
黒エルフ「大丈夫? 顔色が悪いけど……」
女騎士「……」ガシッ
黒エルフ「って、何よ! 急に抱きついてきて」
女騎士「う゛ぅ゛~! よ゛がっだの゛だぁ~~~!」
黒エルフ「はぁ!? なに泣いてんのよ!」
女騎士「う゛ぅ゛~!」
黒エルフ「きゃあ! 鼻水!? き、汚いわね! 離れなさいよ!」
通行人(ざわ……ざわ……)
黒エルフ「ほら、人が集まってきちゃったじゃない!」
女騎士「~~~!」ギュウ
黒エルフ「もうっ! さっさと離れてよ!」
女騎士「~~~!」ギュギュウ
黒エルフ「離れろぉ~~~!!」
▼夜
女騎士「待たせたな。肉屋の5千Gだ」
銀行家「おおっ! みごと回収に成功したのですね」
幼メイド「お仕事ご苦労さまなのです~」
女騎士「いや、私は何も……」
幼メイド「ほらね、だんなさま! おねえちゃんを雇って正解だったのですよ~!」
銀行家「ええ、本当に」
幼メイド「おねえちゃんが帝都に行っているあいだ、町ではウワサになっていたのです。あの肉屋さんが繁盛しているって。いったい、どうやってけーえーさいけんしたの? お話を聞かせてほしいのです~」
銀行家「お話は明日になさい。そろそろベッドに入る時間ですよ」
幼メイド「ぷぅ~」
銀行家「しかし、正直なところ私も驚きました。番頭の話では『あの肉屋はもう後がない』と聞いていたのです。……いったいどんな魔法を使ったのです?」
女騎士「魔法など使っていない」
銀行家「ほう」