業績不振で社長交代…「給与も払えなくなってしまう!」新社長がハッパをかけるも、幹部社員は「全員笑顔」の恐ろしい真相

業績不振で社長交代…「給与も払えなくなってしまう!」新社長がハッパをかけるも、幹部社員は「全員笑顔」の恐ろしい真相
(※写真はイメージです/PIXTA)

決算書を理解していないと、「知らなかった」では済まされない大きな失敗を引き起こすことがあります。決算書理解の重要性を知るために、決算書を読めないがゆえに起こる「失敗事例」の典型を見ていきましょう。斎藤正喜氏の著書『ビジネスリーダーなら知っておきたい決算書&ビジネス数字の活用100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、紹介します。

「このままではつぶれる!」新社長の檄を飛ばすも、幹部らは…

地方の放送業であるB社は、地元では無借金経営で超優良企業と評判の企業です。しかしここ数年業績が不振で、売上、利益とも低下し、今期は赤字転落も予想されており、親会社は業績の回復を図るため、新社長として遠藤氏(仮名)を派遣しました。

 

遠藤新社長は、幹部社員全員を集め新しい経営方針を説明し、最後に「今期は赤字になる、皆で頑張って利益を出さないと会社はつぶれてしまう! 給与も払えなくなってしまう!」と危機感をあおり、幹部社員の奮起と意識革新を促しました。

 

ところが、気合を入れた新社長の表情とは対照的に、幹部社員は全員にこやかな表情で、「社長! わが社はこれまで利益を上げ続け、金庫に利益剰余金が50億円もあります。だから当面は絶対大丈夫ですから安心してください!」と逆に諭されてしまいました。

 

遠藤新社長と幹部社員のどちらが正しいのでしょうか?

B社の経営状態を判断すると

出所:斎藤正喜著『ビジネスリーダーなら知っておきたい決算書&ビジネス数字の活用100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)
[図表1]B社の経営状態(単位:百万円) 出所:斎藤正喜著『ビジネスリーダーなら知っておきたい決算書&ビジネス数字の活用100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)

 

B社の貸借対照表を見ると、利益剰余金が50億円ありますが、負債は未払費用の7億円だけで、借入金や社債などの有利子負債は全くみあたらず、無借金経営です。また、企業の健全性を示す自己資本比率を計算してみると90%近くにもなり、この数字を見るかぎり典型的な超優良企業といえます。

 

一方、損益計算書を見ると、ここ3年間、売上高、営業利益、当期純利益とも減収減益の状態が続き、このままの状態で推移すると今年度は赤字転落の可能性もあります。

「利益剰余金50億円」は本当に金庫にあるのか?

50億円の利益剰余金は本当に金庫に保管されているものか、貸借対照表の資産を見ると、5億円は現金、8億円は売掛金として回収予定ですが、50億円が固定資産となっています。

 

要するに、長年かかって蓄積された50億円の利益剰余金はそのほとんどが放送設備、鉄塔、アンテナなどの固定資産の購入に充ててしまったのです。だから金庫にお金はないのです。

 

出所:斎藤正喜著『ビジネスリーダーなら知っておきたい決算書&ビジネス数字の活用100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)
[図表2]参考:固定資産の中身 出所:斎藤正喜著『ビジネスリーダーなら知っておきたい決算書&ビジネス数字の活用100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)

「金庫に50億円あるから安心だ!」の犯人は前社長

では、なぜ幹部社員が「金庫に剰余金が50億円ある」と思い込んでいたのか、実は、新社長が就任する直前、旧社長であった中村氏(仮名)は幹部社員を集め、お別れの挨拶をしたそうです。

 

その時「業績不振の責任をとって私は辞めます、新しく来る新社長の下で皆頑張って業績を回復してください!」といい、さらに「でも皆さん安心してください、わが社には金庫に剰余金が50億円ありますから…」と付け加えたとのことです。それを聞いた幹部社員は、「金庫に剰余金が50億円ある」とすっかり信じ込んでしまったということです。

しかし、貸借対照表の「左側」を見れば明白

「利益剰余金=内部留保」というと、このB社の幹部社員のようにお金を貯め込んでいると思う人が多く見受けられます。しかし、社内に本当にお金が留保されているか否かについては、貸借対照表の(左側の)資産の内容を見ることが必要なのです。

 

 

斎藤 正喜

CESクリエート代表

経営コンサルタント

日本能率協会マネジメントセンター パートナーコンサルタント

 

 

横浜国立大学経営学研究科修士課程修了。公認会計士第2次試験合格後、プライスウォーターハウス会計事務所に入所し、会計監査業務に携わり数十社の会計監査を担当する。

以後、日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて、十数年間にわたって経営革新、営業力強化、流通業、サービス業における業務改革や経営管理、サービス(CS)向上のテーマによりコンサルティングを実施。

現在は主に事業戦略、経営財務の分野における企業内研修及び流通業に対するコンサルティング活動、会計監査業務も実施。

また、日本能率協会マネジメントセンターにて、通信教育教材として「ビジネス数字 超入門」「管理者必修! 財務の基本コース」などの人気講座のテキストを執筆・監修する。

※本連載は、斎藤正喜氏の著書『ビジネスリーダーなら知っておきたい決算書&ビジネス数字の活用100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。

ビジネスリーダーなら知っておきたい決算書&ビジネス数字の活用100の法則

斎藤 正喜

日本能率協会マネジメントセンター

●会社から「決算書を学べ」と言われた(またはそうした研修を課された) ●これまでと一段上の業務をする中で決算書の理解が必要と感じた ●管理職として決算書の理解を求められた こういった場面は誰でも訪れる可能性が…

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