常識を覆す「船舶ファンド」を生んだ投資家のニーズとは?

倉本 達人
階戸 雅博
常識を覆す「船舶ファンド」を生んだ投資家のニーズとは?

決して利回りは高くないのに、圧倒的な人気を博している投資商品がある。SBIマネープラザが9月から取り扱いを開始した“船舶ファンド”だ。出資者の募集を開始してから、わずか5日でほぼ予定額に達するほどの申し込みが殺到。船舶という投資対象を手掛けた経験のない、新規参入企業の商品がこれほどの人気を博すのは異例中の異例だ。そのヒットの要因はどこにあったのか? 背景には、他の船舶ファンドにはないエッジの効いた商品特性と、不可能を可能にした2人の仕掛け人の存在があったといえる。今回は、その2人に“船舶ファンド”誕生の秘話などを語っていただいた。

初年度の税務上の償却メリットは「常識外」の約95%

――いよいよ9月から船舶ファンドの募集を開始しましたね。

 

階戸 はい。この商品は、正確には「船舶を対象とするオペレーティングリース事業にかかる匿名組合出資(ファンド)」になります。保有する船舶を海運会社にリースすることでリターンを得るファンドですね。より具体的に言いますと、今回のファンドでは「ケミカルタンカー」という化学品の運搬を目的とした船舶を当社の子会社が保有し、イギリスの海運会社にリースすることになります。

 

そのタンカーの価格は約40億円。そのうち、約30億円をフランスの銀行からの融資でまかない、残り約10億円分の出資を投資家の皆さまから募った格好です。おかげさまで、募集を開始して3日目で8割方の出資がまとまり、5日目には申し込みベースでほぼ目標金額に到達してしまいました。

 

――そんな短期間で10億円もの出資が集まった理由はどこに?

 

階戸 1つは、初年度に享受できる税務上の償却メリット(以下、初年度損金率)でしょう。今回のファンドは、出資額に対して約95%の初年度損金率となるよう設計されています。

 

一般に、船舶を購入したファンドでは、事業開始から数年間、リース料収入よりもはるかに大きな減価償却費が計上されることになるため、ファンドの決算は赤字となります。出資された方は、その損失で本業の利益を相殺することで、課税所得の繰り延べが可能となるわけです(※)。

 

ただ、これまでの船舶ファンドでは、初年度損金率はせいぜい70~80%程度。今回、それをはるかに上回る損金率を実現できたので、多くの投資家の皆さまから申し込みをいただけたのだと考えています。

 

【図表 他社案件との比較】

 

話が出てからローンチまでのスピードも「常識外」

――これまでの船舶ファンドにはない商品設計ができた理由をどう見ていますか?

 

階戸 テクニカル面では、いくつか理由があります。1つはファンドが購入する船舶を新しく造られるものに絞ったこと。新品の船舶を購入した場合には16%の割増償却ができるという税制上のメリットがあるのです。2つ目は、レバレッジを効かせたこと。今回のファンドは約30億円の融資に対して、出資分は約10億円。約4倍ものレバレッジをかけることで、出資持分に対して損金計上できる割合を高めたのです。でも、こうした設計を可能にしたのは、ミナトマネジメントの倉本社長と、船舶の借り手となる海運会社との交渉窓口になってくれたアドバイザーさんのおかげです。私の無茶な要望に、よく付き合ってくれました(笑)。

 

株式会社ミナトマネジメント 代表取締役 倉本達人氏
株式会社ミナトマネジメント 代表取締役 倉本達人氏

倉本 いや、私もはじめは「こんな設計の船舶オペレーティングリースは無理じゃないか?」と思っていましたよ(笑)。というのも、こうした船舶ファンドは昔からあるクラシカルな投資商品なのです。

 

ミナトマネジメントは、主に海外の投資家の資産管理を手掛ける会社ですが、以前私は、公認会計士・税理士として監査法人などに身を置いていて、課税所得の繰り延べニーズをもつオーナー経営者などが船舶ファンドを購入する様子を間近で見てきました。

 

ただ、そこでは「初年度損金率70~80%が船舶ファンドの常識」という意識があったんですね。初年度損金率が95%なんて、どう考えてもムリ。結局、その常識を打ち破ったのは階戸さんの企画力と、海運会社との折衝にあたってくれたアドバイザーさんの交渉力の賜物だと思っています。私は、そのプロ意識の高さに触発されたクチですね。

 

SBIマネープラザ株式会社 常務取締役総合企画部長階戸雅博氏
SBIマネープラザ株式会社 常務取締役総合企画部長階戸雅博氏

階戸 あとで聞いた話ですが、アドバイザーさんも、最初は半信半疑だったようですね(笑)。私が「船舶ファンドをやりたい」と言ってから、すぐに条件に見合う船と海運会社のリサーチを開始してくれたようで、実際、いくつもの案件を提案してもらいましたが、なかなか話がまとまりませんでした。

 

ただ、これ自体はよくある話らしく、私たちのような新規参入企業の場合、その多くがいつの間にか立ち消えになるそうです。また仮に運よく話が進んだとしても、早くても1年以上をかけて、契約を取りまとめることになるみたいです。

 

倉本 その中で、今回の案件は、本格的に動き出してから半年足らずで商品化に漕ぎつけた。これは驚異的なスピードだと考えています。アドバイザーさんにとっても海外の海運会社との契約は初めてだったということで単純な比較は難しいのですが、「こんな短期間で船舶オペレーティングリース事業に新規参入した例は過去にない」という雰囲気でしたね。

 

階戸 正直、私も最初は「船?」と半信半疑でした(笑)。アドバイザーさんと最初にお会いしたのは昨年12月のこと。課税所得の繰り延べができる金融商品を模索していたところ、「船はどう?」という提案をしてくれたのがスタートでした。

 

その後、いろいろな船を提案してくれたのですが、なかなか、「これだ!」、と思えるものがなく、お断りを続け、今年の3月頃には、本気でやる気があるのか、というアドバイザーさんの冷たいまなざしが痛いほどよくわかりましたので(笑)、半信半疑の関係者みんなで決起集会をやってお互い腹を割って話そう、ということで、それからうまく話が進むようになったということもあります。

 

私としては、太陽光ファンドでの経験を踏まえて、商品設計さえうまくいけば、結果はついてくる、という確信はあったんですけどね。

 

(※)お客さまの状況に応じて、税務上の取り扱いが異なる場合があります。税務上の取り扱い等につきましては、

お客さまの住所を管轄する所轄税務署、または税理士へお問い合わせください。

 

 

取材・文/池垣 完 撮影/鵜沢 昭彦
取材・文/田茂井治 撮影/鵜澤昭彦

 

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プロフェッショナルたちが語る「船舶ファンド」の最前線 ~セールス・実務編<第1回>

本対談は、2016年9月12日に収録したものです。

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