仮に老後1億円必要でも、「1億円の貯金」は必要ない
本当に安心な老後生活を送るには、1億円の老後資金が必要――。老後資金の必要額として、2000万円説や800万円説などさまざまありますがが、「1億円説」も存在します。
1億円説の内訳はシンプルで、夫婦の生活費が毎月25万円だとすると、33年間で1億円という計算なのだそうです。「60歳女性が平均余命より若干長生きすると1億円必要だ」ということのようですが、医学の進歩でもっと平均寿命が延びるかもしれませんし、妻が夫より若ければ、夫の定年から33年以降も存命である可能性はかなり高いでしょう。
「1億円なんて絶対無理…」と絶望する人もいるかもしれませんが、実際のところ、心配ありません。いまの高齢者の多くがなんとか生活できていますが、彼らが現役だったときに1億円持っていたわけではありませんから。
サラリーマンは「公的年金の力」を過小評価している?
サラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む。以下同様)は、公的年金が充実しています。標準的なサラリーマン夫婦は老後に毎月22万円程度の年金を受け取れるので、贅沢は難しいとしても、なんとか生活するだけなら可能でしょう。
【理由1】60歳で定年になった場合には、65歳まで働いて生活費を稼げば、その後は年金で暮らしていけます。
【理由2】公的年金は、どれほど長生きしても生きている間は支払ってもらえますし、インフレが来ても、原則としてインフレ分だけ毎回の支給額が増えます。そのことから、老後資金の非常に心強い柱と考えていいでしょう。
【理由3】日本の年金制度は現役世代が高齢者を支える仕組みになっているので、少子高齢化が進むと高齢者への年金支給額が減ってしまうわけですが、それほど極端な減少ではなさそうなので、ある程度の老後資金があれば何とかなりそうです。
【理由4】「いまの若い人は老後に年金が受け取れない」などという人もいますが、制度に精通している年金の専門家のなかにはそんなことをいう人はほとんどいません。そのような結果になる確率は極めて低いので、安心しましょう。
【理由5】「年金だけでは老後資金が2000万円足りない」といった話が一時期話題になりましたが、それは誤解です。「今の高齢者は老後の蓄えを取り崩しながら、ささやかな贅沢を楽しんでいる。その取り崩し額は2000万円程度」という意味なのです。
定年直前に資産ゼロでも、持ち家があればどうにかなる
「年金が少しずつ減っていく」「老後もささやかな贅沢を楽しみたい」という2点を考えると、年金だけで生活するのではなく、若干の蓄えを持っておきたいところです。もっとも、現役時代には子育て費用や住宅ローンの返済等々で貯蓄ができなかった、という人も多いでしょう。しかしそうした人も、家さえ持っていればどうにか乗り切れそうです。
サラリーマンは退職金が出ますから、現役時代に老後資金の蓄えが乏しくてもなんとかなるでしょう。最近は退職金の代わりに企業年金を支給する企業もあるようですが、支給のタイミングが異なるだけなので、同じことだと考えてよさそうです。
個人差はバラツキがありますが、遺産も入るかもしれません。平均すると、日本の高齢者は多額の資産を持っています。しかも「長生きしたら老後資金が底を突いてしまう」という心配から質素に暮らしている人が多く、そのような方のなかには、長生きせずに遺産を遺す人もかなりいると思われます。
したがって、定年直前の時点で老後資金が貯まっていなくても、なんとかなる場合が多いようです。
もっとも、多額の住宅ローンが残っていると苦しいでしょうし、借家に住んでいるとさらに苦しいかもしれません。老後に借家暮らしをするとなると、長生きした場合に延々と家賃を払い続けなければなりませんし、その間にインフレが来て家賃が値上がりしてしまうリスクもあります。
現役世代が自宅に住むべきか借家に住むべきか、という議論がありますが、筆者は老後は自宅に住むべきだと考えています。現役時代に自宅を買い、住宅ローンを払い終えておけば、住む場所の確保や、家賃の支払い等の不安から解放されるでしょう。
足りなければ生活を見直し、それでもムリなら節約を
老後資金が足りないと感じる人も多いでしょうが、そうした人はケチケチすることを考える前に働いて稼ぐこと、生活を見直すことを考えましょう。
老後も働くことは、収入を得られるだけでなく、社会との繋がりを維持し、ボケを防止し、誰かの役にたっているという自己肯定感を与えてくれます。かつては高齢者が仕事を見つけるのは大変でしたが、少子高齢化による労働力不足の時代ですから、高齢者でも仕事を探せば見つかるでしょう。
とくに、自営業者は定年がないのですから、元気な間は現役として働き、「老後」を短くしてしまいましょう。
主婦も、子育てが一巡したら働きましょう。収入が増えること、社会との繋がりを持てることに加え、厚生年金に加入できる働き方を選べば、老後資金の面でも安心感が高まります。
生活の見直しもぜひおこないましょう。大きな支出項目について、本当に必要か否かをゼロベースで検討してみるのです。自動車は必要でしょうか。子育て中に購入した郊外の大きな家を売り、都心の小さなマンションに住み替えるのもいいかもしれません。
ちなみに、筆者は自動車を手放しました。さまざまな費用を考えると、そうとう贅沢にタクシーに乗ってもそのほうが安いと判断したわけですが、結果として駅まで歩く、駅の中を歩く、といった健康面のプラスが大きかったように思います。おかげで、スポーツジムの年会費も不要になりました(笑)。地方に暮らす人には必要でしょうが、都会に住んでいる人は、一度検討してみてはいかがでしょうか。
本稿は以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
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