(※画像はイメージです/PIXTA)

経団連が9月11日に発表した「令和6年度税制改正に関する提言」のなかで、「少子化対策」等の社会保障政策の財源として「消費税の引上げ」が盛り込まれたことが物議を醸している。ただし、実際の提言を読むと、消費税以外の税金や社会保険料の制度にも踏み込んだ内容となっている。経団連の提言のねらいと、社会保障制度の財源に関する問題点について、税理士の黒瀧泰介氏(税理士法人グランサーズ 共同代表)に話を聞いた。

経団連の提言の背景にある事実と問題意識

まず、実際の提言の内容を見てみましょう。P29~33に記載されている「税・社会保障の一体改革」という項目です。以下のように記載されています。

 

「今後、高齢化が一段と進み、医療・介護を中心に給付が増加する一方、生産年齢人口の急速な減少が見込まれ、社会保障制度の持続可能性が問われている。そうした中、分厚い中間層の形成のためには、社会保障制度の持続可能性の確保に向け、給付の伸びを適切に抑制するとともに、社会保険料に依存している負担の構造を見直し、安定的な財源の確保を進めるなど、税・社会保障一体で改革を推進していく必要がある。」

 

これから日本では、高齢者の人口が増加する反面、働き手の人口が減少していきます。そんななかで、社会保障制度を維持するには、以下の2つが必要だとしているのです。

 

・給付の伸びを適切に抑制する

・安定的な財源の確保を進める

 

同時に、「社会保障給付費の推移と見通し」に関するデータが紹介されています。国立社会保障・人口問題研究所の「社会保障費用統計」によれば、社会保障給付(年金、医療費、介護費用等)は、2000年度は78.4兆円だったのが、2021年度は138.7兆円となっています。少子高齢化が進んでいるにもかかわらず、社会保障給付は約1.8倍に増えているということす。このデータをみる限り、上記の2つの問題意識自体は適切なものと考えられます。

 

ただし、これら2つのうち、「給付の伸びを適切に抑制する」についてはあまり言及されていません。最後に「なお書き」として、「セルフメディケーション税制の活用などを通じて国民の自発的な健康管理や予防の取組みを促し、医療費の適正化につなげていくこと」とあるくらいです。

 

提言の重点はあくまでも「安定的な財源の確保を進める」ということにあるとみられます。

「消費税の引上げ」に付された「条件」

今回の提言で、経団連が「消費税の引上げ」を盛り込んだことが大きくクローズアップされています。しかし、それが何を意味しているのかは、あくまでも文脈のなかで判断する必要があります。

 

すなわち、提言は、消費税の引上げを「すべき」としているわけではなく、「中長期的な視点からは有力な選択肢の1つである」としているにとどまります。少なくとも文面からは「前のめり」な姿勢とはいい難いものです。

 

また、提言は消費税について「一生涯の所得に対して比例的な負担」であり「景気変動に対しても安定的」とする一方で、消費税の問題点も指摘しています。「消費にマイナスの影響を及ぼし、景気悪化時の負担感が重い」ということを指摘しているのです。そして、消費税の引上げを行う場合の実施時期と上げ幅については「デフレからの完全な脱却を見据えながら、経済情勢を踏まえて検討する必要がある」としています。

 

加えて、提言では、財源として「税」「社会保険料」を区別し、「それぞれの特徴を踏まえる必要がある」としています。そのうえで、「社会保険料と様々な税を組み合わせることにより、バランスの取れた負担のあり方を検討していくべきである」としているのです。

 

こういった文脈から判断すると、消費税の引上げは、社会保険料、および消費税以外の税金の制度改定とセットになっている「条件付き」のものと読むのが自然です。

 

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