(※画像はイメージです/PIXTA)

経団連が9月11日に発表した「令和6年度税制改正に関する提言」のなかで、「少子化対策」等の社会保障政策の財源として「消費税の引上げ」が盛り込まれたことが物議を醸している。ただし、実際の提言を読むと、消費税以外の税金や社会保険料の制度にも踏み込んだ内容となっている。経団連の提言のねらいと、社会保障制度の財源に関する問題点について、税理士の黒瀧泰介氏(税理士法人グランサーズ 共同代表)に話を聞いた。

「社会保険料」や「所得税・資産課税」にも言及

では、経団連の提言には、社会保険料、消費税以外の税金についてどのように記載されているのでしょうか。それぞれについて整理してみましょう。

 

◆社会保険料

まず、社会保険料については、「単一の保険料率で負担は比例的であるが、賦課上限があるため、上限を超過する部分の所得が多いほど負担率が減少する」と指摘しています。また、「資産の保有状況を勘案した社会保険料負担などについて、検討すべきである」とも述べています。

 

これには、社会保険料の制度について、「高所得者や資産の多い人の負担を大きくする方向」、あるいは「低所得者や資産の少ない人の負担を軽減する方向」で改定するのが望ましいというニュアンスが見てとれます。

 

ただし、経団連は企業の利益を代弁する団体です。企業が従業員の社会保険料の半分を負担していることを考えると、「高所得者や資産の多い人の負担を大きくする」というよりも、どちらかといえば、「低所得者や資産の少ない人の負担を軽減する」という方向性を考えているのかもしれません。

 

もし、そうだとするなら、消費税の引上げは、低所得者の社会保険料の負担の抑制とセットということが考えられます。

 

◆所得税

所得税については、「所得税については、令和5年度税制改正を踏まえ、高所得者層における負担状況等をデータに基づいて検証しながら、所得再分配機能を適切に発揮する観点から、経済への影響にも留意しつつ、必要な対応を検討していくべきである。」としています。

 

所得税については、所得が高い人ほど税率が上がっていくという累進課税が採用されています。ただし、所得の類型によっては分離課税で税率が低く抑えられていたり、税負担を軽減する所得控除等の制度もあったりします。ある面では「富裕層に厳しい」といわれ、ある面では「富裕層を優遇している」といわれるのはそのためです。

 

所得税を社会保障の財源の一つとしてとらえるのであれば、なんらかの制度改定が必要だと指摘しているものとみられます。

 

◆資産課税

提言は、消費税や所得税以外にも、「資産課税のあり方」について検討すべきであるとも述べています。資産課税とは、資産を取得・保有した場合の税金をさします。代表的なものとしては相続税・贈与税、固定資産税が挙げられます。

 

社会保険料についてと同様、「高所得者や資産の多い人の負担を大きくする方向」、あるいは「低所得者や資産の少ない人の負担を軽減する方向」で改定するというニュアンスが見てとれます。

経団連の提言が示唆するもの

このように、経団連の提言は、社会保障の財源については消費税だけではなく、社会保険料や、消費税以外の税金も含めた広範な制度改定によって対応すべきという趣旨だと解されます。そのなかで、安定的な財源の一つとして消費税を位置づけているといえます。

 

消費税の引上げに対する賛否は別として、経団連の提言は、社会保障制度の財源をどうするのかという重要な問題を提起したものといえます。今後、この問題が重大な政策課題になっていくのは間違いありません。また、時代のニーズに合わせ、税、社会保険料、それぞれをどのように設計していくのかという議論は避けられません。

 

いずれにしても、最終決定は、国会で法律を作る、あるいは改正することによって行われます。そして、法律を作る国会議員を選挙するのは国民です。社会保障制度のあり方や財源の問題は、自分たちだけの問題ではなく、子、孫の世代にまで影響を及ぼすものです。どのような制度設計が望ましいのか、私たち一人ひとりが、事実を踏まえ、問題点を理解し、主体的に考えていく必要があります。

 

 

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ 共同代表

公認会計士

税理士

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