日本企業の多くが「60歳定年制」を採用していますが、実際に60歳で引退する人は、全体の1割程度。9割程度のサラリーマンが「定年後も働く」という選択をしています。60歳で引退する人と65歳まで働く人の間には、5年間の収入の有無だけでなく、65歳から受け取れる年金額にも差が生じることになりますが、その違いは一体どの程度になるのでしょうか。詳しくみていきます。
同期の9割が「継続雇用」を選ぶなか、60歳で“完全引退”の元・会社員…5年後に知った〈年金格差〉に大後悔 (※写真はイメージです/PIXTA)

サラリーマン引退後に日本人を待っている「長すぎる」老後

上記を含むさまざまな理由から、60歳定年時に現役引退を選択する人が約13.0%。会社員の7~8人に1人は60歳で完全引退を決断しています。年金受給が始まる65歳までの収入が途絶えることとなり、生活のために貯蓄を取り崩していかざるを得ないことは不安ですが、それに加えて、60歳以降も働くことを選んだ約9割の会社員との間には、65歳以降に受給できる年金額に差が生じる点も見逃せません。

 

実際、その差はどれほどのものでしょうか。男性会社員(正社員)の平均給与から考えてみます。

 

厚生労働省『令和4年賃金構造基本統計調査』によると、55~59歳の平均給与(所定内給与)は月41.7万円、年収は674万円です。20歳から60歳までサラリーマンの平均給与を手にしてきたとしたら、60歳定年で現役引退した会社員が65歳から手にする公的年金は、厚生年金部分およそ10万円に加え、国民年金が満額支給なら合計で月16万5,000円ほどということになります。

 

では65歳まで働いた場合はどうでしょう。60~64歳の平均給与は月32.1万円で年収は490万円。年収は60歳から25%以上減額となりますが、5年分多く厚生年金保険料を納めたことで、65歳から受け取れる年金額は厚生年金部分が11.3万円、国民年金と合わせて17万8,000円ほどとなります

 

*厚生年金の受給額は加入期間が2003年3月までは①「平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数」、加入期間2003年4月以降は②「平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」で計算できるが、便宜上②のみで計算。

 

内閣府『令和5年版高齢社会白書』によると、2019年における日本人の平均寿命は男性81.41年、女性87.45年と、会社員としての生活にピリオドを打った後、多くの日本人には20~25年、あるいはそれ以上の「老後」が待っています。

 

60歳で引退した人と65歳まで働いた人の間の、月およそ1.3万円という年金受給額の差をどう評価するかは人それぞれですが、20年という単位でみると年金の受給額の差は総額300万円超になります。また、昨今のように電気代や食料品が高騰するなかにあっては、年金生活者にとっての月1.3万円の差はとてつもなく重要な意味を持つことでしょう。

 

「定年退職はまだまだ先」という現役世代のサラリーマンは、時間を味方につけて複利運用による資産形成を強化したり、普段当たり前に支払っている住居や自動車等にかかる固定費の削減に努めたりと、長い老後を不安なく過ごしていくための準備を、すぐにでも始めたいものです。