日本企業の大半が60歳定年制を導入していますが、役職者に限っては、その前にもう1つの「定年」を迎えることがあります。それが、従業員500人以上の企業ではおよそ3割が採用しているという「役職定年制」。大企業で部長を務める男性を例に、詳しくみていきます。
大企業勤務・年収1,200万円超の“勝ち組”部長「え、聞いてないよ」…定年前、まさかの〈年収4割減〉に苦悶 (※写真はイメージです/PIXTA)

「年下の後輩」が上司になり、給与は大幅減…ダダ下がりのモチベーション

役職定年制導入の背景には、組織の新陳代謝や人件費抑制があります。この制度は、定年年齢が55歳→60歳に引き上げられた1980年代に生まれたとされており、役職定年が「55歳」に設定されている企業が多いのは、そうした事情に起因しているといわれています。

 

厚生労働省『令和4年賃金構造統計基本調査』によると、従業員1,000人以上の大企業・部長の平均年齢は52.8歳。平均給与(所定内給与)は月75万6,600円、年収はおよそ1,270万円になります。55歳時点で「役職定年」を迎え、部長の肩書がなくなると、給与はどうなってしまうのでしょうか。同調査で大卒男性・55~59歳の「非役職者」の給与をみていくと、平均給与は月45万7,000円、年収はおよそ784万円となり、部長時代から4割減となります。

 

また、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によると、役職定年後の主な仕事は「以前と変わらない」とする人が半数を占めます。一方で、「社員の補助・応援」が20.3%、「部下マネジメントの管理業務」が10.8%、「所属部署の後輩社員の教育」が5.4%と、役職定年を機に補助・サポート役にまわる人も目立ちます。

 

仕事内容は同じなのに、給与は大幅減。さすがに、役職定年をきっかけに「モチベーションが下がった」とする声は目立ちます。年下の後輩が上司となり、周囲の従業員からは変に気を遣われ、居づらさを感じる人も多いようです。

 

そうした理由から、役職定年を機に転職を模索するケースも珍しくないようです。ただ、部長にまで登り詰めた経験豊富なベテラン人材を手放すのは、企業にとっても大きな損失。そうした背景から、大手のなかには、役職定年制を廃止する企業も現れ始めているといいます。

 

ただ、60歳目前になっても部長の座に居座り続けることでポストが詰まり、役職定年制誕生の背景にあった「組織の新陳代謝」が停滞してしまうこともまた事実。部下にあたる次長や課長の成長、ひいては企業業績の拡大のために、「役職定年制」をどう扱うのか、慎重に検討する必要がありそうです。

 

年収1,200万円超の大企業・部長――。どこからどうみても、“勝ち組”ですが、役職定年による給与の減少幅について「こんなに減るなんて…聞いてないよ!」とする元・役職者の声は、案外少なくありません。毎月の手取りは部長時代から20万円近く減るというのに、年収1,200万円時代の生活を維持しようとすれば家計が苦しくなることは火を見るよりも明らかです。

 

そこで慌てて、食費や日用品費、友人との交際費といった変動費の節約に走ったとしても、その効果は焼け石に水。大きなストレスもかかりますので、早晩挫折してしまうでしょう。勤め先が役職定年制を導入しているのであれば、役職に就き、収入の高い“勝ち組”のうちから、徐々に生活をダウンサイジングする準備を進めておくべきといえそうです。