凄絶な離婚劇を繰り広げ、娘の親権を得た男性
今回の相談者は、30代会社員の佐藤さんです。複雑な家族関係を心配し、子どもの将来を見据えた対策をしたいと、筆者の事務所を訪れました。
佐藤さんは外資系金融に勤務する、高所得のエリートサラリーマンです。5年前に前妻と離婚し、2年前、ひとり娘を連れて再婚しました。離婚の原因は前妻の度重なる金銭問題と人間関係のトラブルで、離婚が成立するまで、双方の親族を巻き込んだ大変な騒動に発展したといいます。
佐藤さんと前妻は娘の親権を巡りって激しいやり取りを繰り広げましたが、なんとか佐藤さんが親権を勝ち取ることができました。
「再婚した妻は、私のことを心配してずっと相談に乗ってくれていた知人女性です。離婚のゴタゴタのときにも、娘を自分のマンションで預かってくれたり、急な仕事が入ってしまい、家政婦さんのスケジュールが合わないときには、食事の面倒を見てくれたりなど、本当によくしてくれました。この女性なら娘を任せられると思い、再婚に踏み切りました」
再婚後しばらくして、佐藤さんの家庭にはもうひとりの家族が加わりました。去年の春、いまの妻との間に男の子が誕生したのです。
「息子が生まれたことで、これまで住んでいた都内のマンションから、横浜市の一戸建てに引っ越しました」
佐藤さんの父親は資産家で、横浜市の人気エリアに複数の不動産を所有しており、佐藤さんが暮らす家も、そのうちのひとつを生前贈与してもらったものだということでした。
「離婚、再婚、弟の誕生と、娘には何度も転校させてしまいましたが、すぐになじんで学校の友達も多いようです。勉強も頑張っていて、家でもいつも明るく振舞っていますが、僕や妻に気を使っている部分もあるのでしょうね…。ただ、弟のことは本当にかわいいようで、いつも妻と一緒になって面倒を見ています」
自分亡きあとの「妻と娘の関係」を考えると…
佐藤さんはまだ30代後半と若いのですが、自分に万一のことがあった場合を想定し、事前に対策を立てたいと考えています。そう思うに至ったのは、家族に感じたかすかな変化でした。
「以前の妻は娘にべったりで、実の父親である私も間に入れないと思うほどでした。ですが、息子を妊娠してから、娘への態度が変わった気がするのです。口調や態度は変わらないのですが、目が笑っていないというか。2人の間に見えない溝があるような感じで、それがとても引っかかるのです。もっとも、娘とは義理の関係ですから、致し方ないのかもしれませんが…」
「父親である自分がいる限り、大きなトラブルはないと考えています。しかし、もし私に万一のことがあったら、妻と娘の関係が崩れるのではないかと不安です」
佐藤さんの長女はまだ小学校5年生。成人まで9年もあります。話を聞いた筆者と提携先の税理士は、遺言書の作成をお勧めしました。
じつは、家庭でイニシアチブを取っている方が亡くなることで、残された家族関係が大きく変化するケースは珍しくありません。万一の場合の無用な争いを防ぐためにも、遺言で遺産分割を決めておくのは大きな安心材料となります。
あくまでも一般論ですが、義理の親子関係は非常にデリケートで、わずかなことでバランスを崩しやすいことが多く、平穏な家族の歴史を重ねても、決裂するときは決裂してしまいます。また、血縁関係と異なり、一度関係がこじれると、修復は容易ではありません。
佐藤さんは、自分がいなくなったあとに、娘といまの妻との共同生活がむずかしくなることも想定し、万一の際は自宅を売却、預貯金と生命保険は後妻と子どもたち全員で等分に分けるよう、法定割合とは少し異なる記載を行いました。
遺言書を執行する際、子どもが未成年だった場合は後見人が必要となるため、佐藤さんの実弟を後見人として指定する旨も記載し、遺言書の作成が完了しました。
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親の離婚や再婚によって複雑となった家族関係は、状況によってこじれやすくなる場合もあります。佐藤さんが気にしている通り、家庭でイニシアチブをとっている佐藤さんが亡くなれば、家族内の力関係が変化し、妻と娘の関係が悪化する可能性も捨てきれません。
また、佐藤さんの資産のなかで最も割合が高いのは自宅不動産であり、こちらの処分について言及しておかないと、娘が遺産配分で不利になるリスクもあります。
もしものときに後悔しないためにも、周到な準備が望まれます。また、遺言書の執行時に子どもが未成年の場合は後見人が必要ですので、未成年のお子さんがいる方の場合は、その点も忘れずに対策を立てておくことが重要です。
最近はステップファミリーも増え、佐藤さんのようなケースは決して珍しくありません。不安は先送りすることなく、できる対策から着実に進めておきましょう。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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