サラリーマンの「退職金」が“増税”へ…どうする老後?政府が示した新しい「退職金への課税」の中身と問題点

サラリーマンの「退職金」が“増税”へ…どうする老後?政府が示した新しい「退職金への課税」の中身と問題点
(※画像はイメージです/PIXTA)

2023年6月6日、日本政府は経済財政諮問会議で「骨太の方針」を公表しました。そのなかに、「退職金」への課税制度の見直しが盛り込まれています。これにより、実質的な「増税」となるケースが発生することになります。本記事では、現行の退職金への課税制度の概要を紹介したうえで、今回示された方針の中身と問題点について解説します。

「骨太の方針」原案の3つの問題点

しかし、これには、2022年10月に政府税制調査会で提起された当時から、以下の3つの問題点が指摘されています。

 

【「骨太の方針」原案の3つの問題点】

1. 「退職所得控除額」と「転職の阻害」との因果関係が明らかでない

2. 「サラリーマン」と「経営者・自営業者」とでは事情が異なる

3. 退職所得課税の制度趣旨との整合性に問題がある

 

◆問題点1|「退職所得控除額」と「転職の阻害」との因果関係が明らかでない

第一の問題点は、「退職所得控除額」と「転職の阻害」との因果関係が明らかでないというものです。

 

すなわち、会社員が転職する場合の主な理由は、結局は以下の2つに集約されます。

 

・キャリアアップ・給与アップを望んでいる

・職場の環境や人間関係に不満がある

 

いずれにしても、転職する人は、現状に不満があり、環境を変えたいという希望を持っています。

 

特に、キャリアアップ・給与アップを希望して転職を考える人にとっては、現職場にとどまって退職所得控除で税金が多少優遇されるメリットよりも、さっさと転職して良い待遇を得るメリットの方が大きいといえます。

 

したがって、現行の退職所得控除の制度が転職の妨げになるという因果関係自体が必ずしも明らかではありません。

 

◆問題点2|「サラリーマン」と「経営者・個人事業主」とでは事情が異なる

第二の問題点は、「骨太の方針」原案に示された方向性がもっぱら「サラリーマン」のみを想定していることです。

 

経営者・個人事業主は、「雇用の流動化」ではなく、むしろ、長期間にわたり事業を継続して収益を上げ、事業を大きく育てようと努めることが求められます。

 

現行の退職金課税制度は、その長年の努力に対する報いとして、勤続年数に応じた退職所得控除の特典を与えるものであり、経営者・個人事業主にとっては合理性があると考えられます。

 

◆問題点3|退職所得課税の制度趣旨との整合性に問題がある

第三に、従来の制度趣旨との整合性の問題が指摘されています。

 

すなわち、退職所得控除の制度趣旨は、退職金が在職中の給与の後払い的な性格をもつこと、退職後の生活資金となることから、税負担を軽減すべきということにあります。これをどのように位置づけるのかという問題があります。

 

特に、既存の制度を前提としてリタイア後の人生設計を考えている人にとっては、大きなダメージとなる可能性があります。

 

政府税調の会長で租税法学界の第一人者である中里実氏(東京大学名誉教授)も、「長期的な人生設計の前提となる制度の安定性というのは一定程度重要だ」と指摘しています。

 

このように、退職金課税の制度を改めるにしても、解決しなければならない問題があります。

 

鈴木財務大臣は、6月6日の記者会見で「働き方によって有利不利が生じない公平な税制を構築するという観点から、丁寧に議論をしていきたい」と述べており、上述の問題点を踏まえたきめ細かな議論が望まれます。

 

また、私たち国民にも、自分自身の将来設計に関わる問題として、議論のなりゆきを注意深く監視していくことが求められています。

 

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