前回は、同じぐらい勉強していても、成績に差が出てしまう理由を説明しました。今回は、子どもの「考える力」を鍛える問題の具体例を見ていきます。

私立トップレベル中学校の入試問題が格好の素材に

考えるための材料は、本当に何でも構いません。筆者の塾で、算数の入試問題を使っている理由は、次の2点です。第一は難問が揃っていること、第二は入手しやすいことです。

 

「入試問題を解いていれば、中学受験を希望する子どもの役に立つ」などという短絡的な理由ではありません。難しい問題を使って考える訓練をしっかり行い、頭が柔らかくなっていれば、受験など恐れるに足りないと信じています。

 

その意味では、やはり私立のトップレベル中学校の入試問題は、格好の素材です。先にも例を出した灘中学校の入試問題には、次の図のようなものもありました。

 

【例1】

 

8桁の整数12345678に下のような操作を100回続けて行ってできる整数は  です。

操作:左から1、2、3、4、5、6、7、8番目の数字を、それぞれ左から2、4、6、8、1、3、5、7番目に移す。

つまりABCDEFGHをEAFBGCHDにする。

(2013年度灘中学入学試験問題より)

 

 

 

これも一読しただけでは、問題の意味を理解できないかもしれません。何を求められているのかがわかったとしても、簡単には解けないでしょう。ただし、手がかりがないわけではありません。問題文ではアルファベットに置き換えられているけれども、これを数字にして並べてみるとどうなるのかな、と手を動かすことはできるのです。

 

すると、12345678に1回操作をすると、51627384になります。この作業を、正確に後99回繰り返せば、問題は解けるはずです。ですから、少なくとも手を動かし続けることはできるし、間違わないように考え続けることもできるでしょう。その意味では、良問です。

 

実際にやってみると、この操作を6回繰り返せば、元の数字に戻ることがわかります。あるいは3回目で、最初の数の並びとちょうど反対になることに気づくかもしれません。「1」が、どう動くのかに注目する子どもも出てくるでしょう。

 

おそらくこの問題なら、ヒントを出さなくとも、ゆっくりと時間をかけて考えさえすれば、たいていの子どもが解いてしまうのではないでしょうか。

内容を把握するための「熟考」が考える力を養う

算数の入試問題には、このような良問がたくさんあります。このレベルになると問題文を一読するだけでは解けません。

 

塾でも6年生クラスになると、問題を見て鉛筆をすぐに手にする子どもは、ほとんどいません。たいていの子どもは、最初は問題を熟読します。何が問われているのかを理解しなければ、考え始めることさえできないのです。

 

問われている内容を把握するために、問題文を熟読する。この間は、問題用紙をじっと見ていることがほとんどです。その次に始まるのが、問題の中身を情景図や線分図に表してみることです。図を描くことで問題の意味をより深く理解できるようになり、問題を違った角度から見ることもできるようになります。

 

図を描く意味は他にもあります。例えば、子ども自身に線分図を描かせてみれば、数量関係を正しく把握できているかどうかが一目でわかります。仮にAさんが60円持っていて、Bさんが120円持っていることを線分図で表すなら、Bさんの線分の長さはAさんの二倍になります。線分の長さをどう表現するか。これだけのことでも考える訓練になるのです。

 

図をきちんと描くことも、頭を鍛える訓練になります。定規を使って10㎝の長さの線を、正確に引くことができるかどうか。900円を三等分する線分図を描く時に、きちんと三等分できるかどうか。図を描くことで数量感覚を養うことができるのです。

 

だから図は時間をかけて構わないし、美しく描く必要もありませんが、丁寧に正確にバランスよく描くことが必要です。

 

この話は次回に続きます。

東大・京大に合格する 子どもの育て方

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江藤 宏

幻冬舎メディアコンサルティング

「うちの子は勉強しているのに成績が上がらない」、「あの子は勉強しているように見えないのにいつも成績がいい」と感じたことはありませんか? 実はわかりやすい授業ほど、子どもの可能性を奪っているとしたら──。 40年に…

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