(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

 

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①17連勝のモンスター、解散総選挙の日本株

②中国の復活で過熱必至か、真夏のインバウンド消費

③米利下げ観測で復活する「FRBプット」

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気象庁の長期予報によれば、今年の日本の夏は「平年並みか高め」となり、暑い夏となりそうです。近年の夏の暑さには「うんざり」という方も少なくないと思いますが、ビールや清涼飲料、アイス、エアコンなどがよく売れ、レジャーの人出も増える夏の好天は、景気にとってプラス材料といってよさそうです。そんな今年の夏をさらに暑く(熱く)するかもしれないのが、ここもと堅調が続く日本株の動向です。

17連勝のモンスター、解散総選挙の日本株

■岸田内閣の支持率上昇が続いています。報道機関によりばらつきはあるものの、5月の内閣支持率は平均(NHK、朝日、共同、日経、読売、産経、毎日、時事の平均)で47.2%に達し、不支持の同37.1%を大きく上回っています。現在政府は少子化対策や防衛予算の増額といった国民負担増を伴う可能性のある目玉政策に取り組んでいますが、政策実現へ弾みをつけるため早期の解散総選挙に踏み切るとの見方が強まっています。

 

■「選挙は買い」のジンクスが示す通り、政権与党の意思が反映されやすいタイミングで実施される解散総選挙は与党の政権基盤の強化を通じ、株式市場にポジティブな影響を与えるとされています。1969年以降2021年まで計17回の総選挙では、解散前営業日から選挙前営業日までの日経平均株価の勝率は100%、同平均リターンは+3.9%となっています(図表1:総選挙と日経平均株価)。

 

[図表1]総選挙と日経平均株価

 

■選挙のスケジュールとしては、G7広島サミット(5月19~21日)終了後に解散を宣言、通常国会会期末6月21日の衆院解散、大安の7月23日の投開票が有力視されています。好転が続く支持率を背景に岸田総理が解散に打って出ると、今年の夏は「選挙は買い」のジンクスが発動し、株式市場にフォローの風が吹く可能性がありそうです。

中国の復活で過熱必至か、真夏のインバウンド消費

■経済再開や入国規制の緩和もあって、訪日外国人旅行者は急速にその数を増やしています。今年4月には約195万人に達しピークの約65%の水準まで戻っています(図表2:訪日外国人の推移)。このため、わたしたちの体感的にも外国人旅行者を見かける機会が格段に増えてきたのではないでしょうか。

 

[図表2]訪日外国人の推移

 

■コロナ禍明け後、初めてのゴールデンウィークとなった今年5月の連休は、観光地の混雑や高速道路の渋滞がニュースでも大きく取り上げられましたが、訪日外国人の回復、インバウンド消費の復活という意味では、まだ序の口といってよさそうです。というのも、インバウンド消費の主役の中国人観光客が、まだ十分には戻ってきていないからです。直近の訪日外国人のピークは2019年の夏休み、7月の約299万人でしたが、その3分の1に相当する約105万人が中国人観光客でした。一方、今年4月の中国人訪日客数は約10万8千人にとどまっています(図表3:地域別訪日外国人数)。

 

[図表3]地域別訪日外国人数

 

■今年春の中国の大型連休(労働節、4月29日~5月3日)では、国内旅行者数が前年比で71%増加し、約2億7,400万人へと急回復しました。まさにゼロコロナ政策で苦しんだ中国人の「リベンジ旅行需要」の強さを示した格好です。尚、中国政府は海外団体旅行の解禁対象国を段階的に拡大しており、中国発の国際線の運航数も今後急速な回復が見込まれています。

 

■このため今年の日本の夏は、中国人旅行者が大挙して来日することで、本格的なインバウンド消費の復活を目の当たりにすることとなりそうです。外国人でごった返す銀座、六本木、浅草、祇園、道頓堀、天神などが連日報道され、体感としても内需株への強烈な追い風を実感する場面が多くなりそうです

米利下げ観測で復活する「FRBプット」

■歴史的な高インフレに見舞われ急激な利上げを続けてきた米連邦準備制度理事会(FRB)ですが、5月2日、3日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策金利の引き上げで、利上げは打ち止めとの見方が市場では広がっています。潮目の変化のきっかけとなったのは、今年3月以降に相次いだ米地方銀行の破綻です。シグネチャーバンク、シリコンバレーバンク、ファーストリパブリックバンクの3行が立て続けに破綻に追い込まれましたが、市場では次の破綻行を探す疑心暗鬼が続いています。

 

■弊社では、インフレ水準が依然としてFRBが目標とする水準を大きく上回り、良好な雇用環境を背景に個人消費が堅調なこともあり、FRBが利下げに転じるのは来年1-3月期になるものと見込んでいます。一方で市場の一部では、米国でのインフレの減速基調が続いていること、利上げの実体経済への影響がこれから顕在化してくること、そして金融不安による貸し出し態度の厳格化への懸念から、FRBによる早期の利下げ観測が高まっています。

 

■シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)で取引されるフェデラルファンド(FF)金利先物が織り込む、今年9月のFOMCでの利下げ確率は62.7%に達し、据え置き予想の30.0%を大きく上回っています(図表4:市場が織り込む9月の利下げ確率)。こうした市場の見立て通りにFRBが早期の利下げに転じた場合、市況の急変時にFRBが金融緩和で投資家を救う「FRBプット(プットオプションの売り手のように価格下落に伴う損失補填のような状態になること)」への期待が高まる可能性があります。そうなると株式市場では、株価収益率(PER)の拡大が株価を押し上げる金融相場に突入する可能性が出てきそうです。

 

[図表4]市場が織り込む9月の利下げ確率

 

■「FRBプット」復活の予兆として、米ハイテク株の好調を上げることができそうです。グーグルの持ち株会社アルファベット、アップル、メタの旧社名フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト(GAFAM)といった主要ハイテク株の業績は冴えない状況にあります。一方でGAFAMの株価は、リストラや「予想ほど悪くない」決算を手掛かりに年初来で39.5%上昇し、ナスダック総合指数(同18.1%)やS&P500指数(同7.7%)を大きく上回っています(図表5:GAFAM株の推移)。

 

[図表5]GAFAM株の推移

 

■今後、秋口以降の利下げの蓋然性がさらに高まるようなら、それに先駆けて夏には世界の株式市場は本格的な金融相場に突入する可能性がありそうです。その場合には、外国人投資家が日本株にも積極的な買いを入れてくるシナリオを想定しておいた方がよさそうです。

まとめ

暑い夏は一般に景気や株価にポジティブと言われます。今年の夏は、政治、インバウンド消費、米国金融政策など、日本株の動向を左右しそうな材料が目白押しとなりそうです。

 

巷では堅調が続く日本株の水準を見て、高値警戒感を指摘する声が見られるようになってきました。とはいえ、これまでの主な上昇相場がそうであったように、弱気筋の買戻しを巻き込むことで力強い強気相場が形成されてきたことも事実でしょう。わたしたちとしては、これから来るかもしれない「暑い(熱い)夏」に備えて、ぬかりなく準備をしていきたいところです。

 

 

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『堅調が続く「日本株」…「夏場にかけて株高が続く」と予感させる、3つの理由【ストラテジストが解説】』を参照)。

 

白木 久史

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフグローバルストラテジスト

 

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