●FRBは5月8日に銀行融資担当者調査を発表、金融不安が強まるなか市場はその結果に注目。
●商工業ローンの融資基準は厳格化が進み、過去景気後退入りした40%水準を一段と上回った。
●調査の示唆同様、弊社も米景気後退を予想、ただ軽度な景気後退となり市場の混乱は回避へ。
FRBは5月8日に銀行融資担当者調査を発表、金融不安が強まるなか市場はその結果に注目
米連邦準備制度理事会(FRB)は5月8日、銀行融資担当者調査(Senior Loan Officer Opinion Survey on Bank Lending Practices)を発表しました。この調査は、FRBが3ヵ月に1回の頻度で実施しており、商工業ローンや住宅ローンなどの融資基準や資金需要について、銀行の融資担当者に聞き取りを行った結果をまとめたものです。米国の銀行だけでなく、米国に拠点を置く大手外国銀行も調査対象としています。
一般に、融資基準の厳格化、すなわち信用条件の引き締まりが進むと、景気は減速しやすくなる傾向があるため、この調査は、景気の先行きを見通す上で非常に重要といえます。今回の調査では、回答期間が3月27日~4月7日に設定され、銀行の融資担当者が過去3ヵ月の融資状況を回答しました。3月の米シリコンバレーバンク(SVB)破綻以降、金融不安が強まるなかで初の調査となったため、市場の注目が集まっていました。
商工業ローンの融資基準は厳格化が進み、過去景気後退入りした40%水準を一段と上回った
商工業ローンについて、融資基準を「厳しくした」との回答割合から「緩めた」を引いて計算した結果は図表1の通りで、数値が大きいほど、融資基準の厳格化が進んでいることを示します。今回、大企業・中堅企業向けは46%、小企業向けは46.7%に達しており、近年では、2020年のコロナ・ショック、2008年のリーマン・ショックに迫る、厳格化の大幅な進行が確認されました。
図表1では、商工業ローンの融資基準について、過去の推移と米景気後退期を重ねていますが、1990年以降、厳格化が40%を超えると景気後退入りとなる様子がうかがえます。そのため、今回の結果を踏まえた場合、米国の景気後退入りのリスクは高まっていると思われます。やはり、銀行が融資基準を大幅に厳格化すると、企業の設備投資や家計の住宅投資が抑制され、景気にはかなりの下押し圧力になると考えられます。
調査の示唆同様、弊社も米景気後退を予想、ただ軽度な景気後退となり市場の混乱は回避へ
なお、商工業ローンについて、資金需要が「強まった」との回答割合から「弱まった」を引いて計算した結果は図表2の通りで、数値が小さいほど、資金需要の減少が進んでいることを示します。今回、大企業・中堅企業向けは-55.6%、小企業向けは-53.3%に達しており、資金需要の減少度合いは、2020年のコロナ・ショックを超え、2008年のリーマン・ショックに迫るものとなりました。
また、図表2も、過去の米景気後退期を重ねていますが、資金需要の弱まった割合が40%を超えると景気後退入りしており、やはり今回の結果には注意が必要です。なお、弊社は年後半から来年初めにかけて米国の景気後退入りを予想していますが、金融危機のような深刻なものではなく、比較的軽度な景気後退を想定しています。そのため、株式市場にも一定程度、景気後退の影響は及ぶと思われますが、大きな混乱は避けられるとみています。
(2023年5月11日)
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『強まる「金融不安」…米国における「信用条件の引き締まり」と景気の関係【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト