離婚までに至らなかったが、夫婦関係が修復されなかった様子である。
夫婦関係が良好ではない、そして「父親とのかかわりが少ない。距離感がある」という親子関係から、男性2が親に放任されたと感じさせられた可能性がある。
また、女性2の場合は、「父が学歴の高い人ではないので、人生のあり方や仕事の選択など教えてもらえない、先生に聞いてといわれている」との発言から、父親から教わることが少ないため、父親がかかわろうと思ってもかかわることができなかったことも否定できない。そのため、「放任的養育だし、あまり教育してくれなかったので、常識も同年代の子より足りない」との評価をしたと考えられる。
このように、時代や社会の変化によって家庭文化が変化した部分以外に、各家庭の事情による特性である一面も見られる。
少なくとも片親が厳格型について
中国では1980年代から一人っ子政策が実施されていたため、1990年代に生まれた対象者の中国人大学生は大抵一人っ子であり、家庭の中は注目を集める存在になっている。
張(2007)は中国南京市の小学生を対象とした研究結果から「中国の親は一人っ子の子どもに過度な期待を持ち、主に成績や能力への要求が高いことが裏付けられた。多くの子どもが“親の期待が自分の能力を超えている”と思っている。これは現代の教育と試験体制、競争が激しい現実社会と大きく関係している一方、親が自身の人生がうまくいけていない、あるいは(他者と)張り合う心理を持ち、(親が)自分の人生の設計図を子どもに押し付けていると推測できる。」と述べている。
一人っ子であるわが子への過度な期待だけではなく、中国の隋の時代から始まった科挙制度により、“金榜题名”(天下に名を馳せる)という考え方は現代社会や家庭においても根深く残されている。
親が厳しくしつけたと認識している男性1の場合は「父親の人生が失敗だったので、特に勉強に厳しかった」と父親から高く期待されていたことが、そういった教育のあり方につながったと考えられる。
男性3は兄弟がいるが、「親から離れるまで勉強をする以外、全部親が考えてやってくれたので、生活をどうしたらよいかわからない」との語りから、親が生活面の自立より学習面への期待が高い養育をしてきたことが推測される。
※本稿では各調査元(研究者氏名)と、調査年を()内に明記している。
矢藤 優子
立命館大学総合心理学部 教授
劉妮(りゅう・に)
龍谷大学大学院博士後期課程満期退学。修士(臨床心理学)。龍谷大学非常勤講師、大阪バイオメディカル専門学校非常勤講師、児童養護施設聖家族の家プレイセラピスト、大阪府立高等学校スクールカウンセラー、立命館アジア・日本研究機構補助研究員。 〔本書担当箇所〕第5章