額ありきの「バラマキ」が業態転換に活かされないワケ
中山社長も、補助金や給付金ありきの政府の支援スキームに思うところがあるようだった。
「雇用調整助成金や事業再構築補助金といった支援制度のおかげで金銭的なバックアップがあるのはありがたいです。でも、社員のスキルが上がっていくわけではないのが悩みどころでね。安くても仕事をすれば、加工の腕も上がるし。
例えばコロナをきっかけに社外留学とかさせられないかとかも考えたけど、それも申請してみないと分からなくて結局できなかった。社員をただ休ませるよりかは、勉強させたかったんだけど、何を勉強させたらいいのかとかも悩むしね。職人仕事はやっぱり社員が力だからね」
有事が長期化する中で補助金や給付金といった額ありきの「バラマキ」による支給だけではなく、業態転換も促す狙いがあったとすれば、社員のスキルアップや社外留学も支援の対象とするような柔軟性を制度に設けてもよかったのではないだろうか。
環境の変化に事業者支援の柔軟性が追いついていなかった。新型コロナの拡大に伴って、無尽蔵に広げてきた支援から絞り込みや実際の運用する中で生まれてきた課題をもとに変えていくことが必要だった。
永田町ではそうした問題提起は少なく、相変わらず「規模」ありきの議論が中心だった。議論と呼んでいいのかも分からなかった。政局至上主義に陥り、将来的な国のビジョンが描けなくなっている気がした。国民の意識と政治の方向性は乖離していた。
高橋 祐貴
毎日新聞社東京本社経済部
記者