半ば放置されている「ゼロゼロ融資」の悪質な使途
「無利子・無担保って聞いたんで、とりあえずすぐ借り入れだけはしました。はっきり言って、お金はいらんのやけど、万が一に備えてね。銀行に置いとっても金利がつかないっていうのが事実ですよね。日銀も金利は上げへんでしょ。やから、証券会社で債券買って、外貨建てにつこうてますわ。元々の融資含めて7,000万円くらいやっけな」
男性社長はこう言って豪快に笑い飛ばした。この社長に限らず、似たような話は複数の経営者から聞いた。大阪府で精密機器の代理店・卸業を営む男性社長もあっけからんと次のように話す。
「ほんまに経営が危ないところは運転資金に回していると思うよ。タダやからとりあえず借りとこって人がおるのは政府も分かっとるんちゃうか。なんで、僕は株と国債買いましたわ。確実に損をしない堅いところにと思って。
日銀も国債の買い入れどんどん増やしよるし、買い支えしとるうちに買っとこおもてね。その間にちょっとでももうかりそうな銘柄やら投資があったらちょっとやろかって。そんなもんよ」
こうした行為は企業が負担すべき利子の返済を事実上、国民に押しつける違反行為だ。原資が税金であるという認識はなさそうだった。
政府もこうした実状を把握している模様だが、半ば放置されているのが実態だ。ある中小企業庁幹部は、「ゼロゼロ融資の目的は危機対応。苦しんでいる事業者に一刻も早くカネを配るには、多少のことは目をつぶるしかなかった」と話した。
新型コロナ融資が企業・金融機関双方のモラルハザードを助長したとの批判も多い。2022年には、名古屋銀行や中日信用金庫がゼロゼロ融資を巡り、職員による不正があったと発表した。
一例としては、職員が企業の売り上げを実際よりも少なく書き換えたうえで、信用保証協会に融資保証を申請し、本来よりも低い保証料で取り決めを交わす不正な融資を実行していた。
そして、金融機関が通常よりも多額の資金を中小企業に融資することで、自治体が肩代わりする利子収入を多く得ようとした。
こうした不正事案についてある金融庁幹部は次のように語る。
「氷山の一角。政府保証があることをいいことに貸した後は知らんぷりをしている地域金融機関の相談を個別に受けることもある。かなり悪質な例だと、銀行側がゼロゼロ融資の利用を促して、投資信託と併せて提案しているという情けない話もあった」
この幹部の見方に過ぎないが、水面下ではゼロゼロ融資の貸し出し残高が増えたことで財務状況が改善したかに見せ、金融機関同士で合併、提携の話を進めやすくする狙いもあるという。
中小企業支援に詳しい神戸大学経済経営研究所の家森信善教授は、「中小企業の経営力強化につながる制度とは、どういうものなのか、ゼロゼロ融資で露呈した教訓を生かして最善策を探る必要がある」との見方を示している。