5年で防衛費を約2倍に
防衛費は2023年度の予算要求段階では上限を設けない「特例扱い」となった。戦後、初めてのことだ。
岸田首相が2022年6月に「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」と明言したことが根拠となっているが、防衛費を除いたとしても、恒常的な予算の要求に上限を設けず、増額を前提とした措置というのは極めて異例だ。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国が対国内総生産(GDP)比2%の国防予算確保を目指していることに足並みを合わせるため、日本政府も5年以内にGDP比2%の防衛費を目指すと示した。
理由は、安全保障を巡る環境の厳しさが増しているからだ。ロシアは国際社会の警告を無視してウクライナに侵攻した。
海洋進出を強める中国は、2022年6月に3隻目の空母が進水。「台湾有事」も含め、実戦配備されれば空母の常時展開が可能になるとされ、日本が頼る米軍の優位性が揺らぐ恐れが出ている。
核開発を続ける北朝鮮も、2022年に入り新型ミサイルの実験を繰り返している。
中国が台湾近海で軍事演習を繰り返す中、ウクライナ危機の対応に追われる米国を東アジアにつなぎ留めるためにも同盟国として貢献を示す必要があり、岸田首相は5月に日米首脳会談でバイデン大統領に防衛費増額を表明した。
GDP比2%という防衛費はどれほどの規模なのか。日本で防衛費とされているのは、防衛省が所管する自衛隊の経費が中心だ。
2021年度は当初予算と補正予算を合わせて計6兆1,078億円で、GDP比は1.09%。これまで防衛費は1%が目安とされており、それを踏まえた規模となっている。
一方、NATOの防衛費の定義は異なっており、領海警備など日本では海上保安庁が担当する分野の経費や国連平和維持活動の費用なども含んでいる。その定義に合わせると、日本の防衛費は約6兆9,000億円でGDP比は1.24%だ。
政府や与党が目指す2%はこのNATOの定義を基準にしていて、現在のGDPに照らすと約11兆円とほぼ倍増することになる。
これは、2年分の公共事業費に匹敵し、法人税の税収に迫る額(約13兆円、22年度当初予算ベース)だ。米国、中国に次いで3位の規模となる。