バラマキは一種の麻薬
「ゼロゼロ融資で企業を支えている間に、デジタル化などポストコロナに向けた構造改革を進めていく」
政府はそんな青写真を描いていた。
しかし、中小零細企業にそんな体力は残っておらず、一日一日をどう凌ぐかで必死な企業は目の前のことで精いっぱいだった。政府の思惑とは裏腹に、コロナ禍前の産業構造はほとんど変わっていない。
また、コロナ禍に加え、2022年2月以降はウクライナ侵攻に伴う物価高が製造業をはじめとする事業者の経営を締めつけている。上場企業はコロナ禍からの回復が進み、過去最高益を出すなど円安の恩恵を受けていたが、下請けや中小企業はあまり享受していない。
給付金などのメニューは出し尽くしてしまい、もはや弾切れ状態だった。
大手自動車会社の1次下請けの金型メーカー「中山鉄工所」(岡山県倉敷市)の中山光治社長は2020年の受注が前年比4~6割に落ち込み、新車開発も1年半延期になったことで収入の柱を見いだせずにいた。
コロナ禍で国内外の自動車生産に急ブレーキがかかり、金型の受注件数も急減したためだ。これまで、自動車産業への依存度を低めようと医療機器、航空機メーカーにも販路を拡大しようと開拓してきたが、コロナ禍ではどの業界も逆風にさらされている。
「医療機器はコロナ対応が優先で、人工関節の開発計画を延期した。航空機の部品製造の仕事ももらっていたが、大手メーカーの減産で受注がなくなった」
円安で中国市場から撤退した中小メーカーからの新規注文があるものの、「格安生産」との比較が前提となる。
価格面で折り合うことができず、「顧客の希望額が2倍ほど開くケースもある。『この価格ならすぐにお願いする』と言われるが、簡単ではない」と嘆いていた。
そこに、ロシアによるウクライナ侵攻が追い打ちをかけた。
「資源価格の高騰で材料費が大きく上がっているのが本当に痛い。(仕入れ値は)20%ぐらいの値上げは当たり前。ステンレスや銅は通常の1.5~1.7倍になっている」
ニッケルなどロシアが多く供給している部材も扱うため、まさにウクライナ危機が経営を直撃している。価格転嫁は難しく、上海のロックダウン(都市封鎖)により取引先の工場が稼働しないこともあって、出荷ができないような状況にも見舞われていた。
コロナ禍から2年以上が経過する中、政府支援は打つ手がなくなり、地方に大規模な「バラマキ」の予算をつけて自治体の裁量で配分してもらう手法が多用されるようになった。
兆円単位の予算が積算根拠もなく積み上がり、財政規律はまたしても緩む。ある経済官庁幹部は次のように指摘する。
「補助金や給付金、交付金は企業を受け身にさせ、常識的な経営者でさえ補助金をもらうことが目的となり、その間は自分が何をするべきかという考えを奪われてしまう。コロナ禍の政策はある種の麻薬になってしまっている」