補助金が800万円も少ない? オープン当初は好調も…
そんな意気揚々モードの加藤社長でしたが、しばらくすると異変が起こります。2,000万円だったはずの補助金採択額が「1,200万円」となっていたそうです。
FC本部へ問い合わせると、「いえ、補助対象費用は1,600万円ですので、その3/4の1,200万円が補助金となります。2,000万円は理論上可能な最高額を記載されているものかと…」と曖昧な回答でした。しかし、最初の説明の時の資料を見ると、確かに『最大2,000万円』と書いてあります。
(私の思い込みがあったかもしれないな。まぁ補助金が多少減額されても、それでも2年で回収だ。普通のビジネスより格段に効率が良いことは間違いない!)
補助金採択と高収益が期待できる新規事業に気持ちの緩みが出ていた加藤社長は、気持ちを切り替えて店舗オープンに全力を注ぐことにしました。
無事にオープン日を迎えると、計画通りの行列ができています。そして、閉店後に目標達成の一報を受けた加藤社長は成功を確信したそうで、高橋社長にも嬉しそうに盛況っぷりを話されたそうです。
しかし、半年後あたりから異変が起きはじめます。目標売上が未達の日がぽつぽつと出始めたのです。高橋社長も散歩がてらお店の前を通ってみると半年前にできていた行列はすっかり無くなり、閑散としたお店がそこにありました。
「加藤さん、大丈夫かな?」心配する気持ちはあっても、なかなかこちらから声をかけられません。
そうこうしている内に、お店が閉店したことを知ることになります。後に共通の知り合い伝いで聞いた話では、続いた赤字が初期の半年分の利益を食いつぶしてしまい、「このまま続けても赤字を垂れ流すだけ」ということで、1年半もたたないうちに閉店したそうです。
たまたまお店の前を通ると閉店後の解体作業をしており、導入された設備が埃を被っていました。
高橋社長は、このような状況を見て「税金でゴミが増えただけなんじゃ…」と思わずにはいられなかったのだそうです。
この税金の使い道は正しかったのか?
私は税理士という立場から、クライアントの事業再構築補助金の活用を手助けしてきました。そしてこれらの補助金が、コロナ禍という人類がいまだかつて経験したことのない苦境において、多くの人の助けになったことは言うまでもありません。
しかしその一方で、日本中で加藤社長のような事例が出ていることにも目を向けなくてはなりません。
私は税理士であり、M&A支援に精通している身でもありますが、M&Aの場合には「後継者不在の解決」「従業員の雇用維持」「顧客へのサービス提供継続」「開業や事業拡大」といった経済面でのメリットが多々あります。
もっと言うと、「持続可能な事業を構築する」という点にメリットを感じています。なぜならM&Aは「既存資源の有効活用」が前提になるからです。
事業再構築補助金はどうしても新たなチャレンジという側面があるため、より失敗する可能性が高く、加藤社長が参入したような新規事業構築における資源の無駄遣いに繋がりやすいと感じていました。じつは「事業再構築補助金」の他にも、「事業承継引き継ぎ補助金」というM&Aに使える補助金もありますが、あまり知られていません。
高橋社長の「税金でゴミが増えただけ」という強烈な言葉は、政府の補助金制度に対する疑問が広がっている現状を反映しているように感じました。私たちは、政府が提供する補助金に対して期待を寄せていますが、その裏で無駄や不正が行われ、税金の無駄遣いに繋がってしまうことは避けるべきです。
ましてや「SDGs推進」を掲げる政府には、資源の有効活用まで視野に入れた補助金制度の確立や周知を期待せずにはいられません。
都 鍾洵(みやこ しょうじゅん)
かがやきM&A株式会社代表取締役
税理士