5―おわりに…将来を担う世代の経済基盤の安定化が急務、大胆な経済支援も必要
コロナ禍の影響も相まって日本国内の少子化の進行が加速している。厚生労働省「人口動態調査」によると、2022年の出生数は、統計が開始された1899年以降、初めて80万人(速報値)を下回った。国立社会保障人口問題研究所では2030年に80万人(確定値)を下回るとの推計であったが、想定より8年早い速度で少子化が進行している。
本稿で見た通り、経済格差は家族形成格差につながる。一方で、未婚化の進行は必ずしも経済面だけが理由ではない。内閣府「男女共同参画白書令和4年版」にて、独身者が積極的に結婚したいと思わない理由を見ると、20~39歳の男性の首位は「結婚に縛られたくない、自由でいたいから」(37.0%)であり、次いで僅差で「結婚するほど好きな人に巡りあっていないから」(36.2%)、「結婚生活を送る経済力がない・仕事が不安定だから」(36.0%)と続く(図表12)。
また、女性では「結婚に縛られたくない、自由でいたいから」(48.9%)と「結婚するほど好きな人に巡り合っていないから」(48.8%)が約半数を占めて並び、次いで「結婚という形式に拘る必要性を感じないから」(41.0%)が続く。
よって、経済的な問題の解決だけでは未婚化の進行を食い止められるわけではない。しかし、男性では経済面に関わる理由が上位3位に入り、首位との僅差で並んでいることから、やはり経済的な問題は無視できない。一方で女性では「女性の活躍」が推進される令和の時代においても、結婚に対する負担感が男性と比べて強いことが大きく影響しているが、やはり女性でも経済的な問題は無視できない。積極的に結婚したくない理由の4位以下には「結婚相手として条件をクリアできる人に巡り合えそうにないから」(38.7%)や「結婚生活を送る経済力がない・仕事が不安定だから」(35.0%)など、経済的な要素を含む理由も僅差で並んでおり、これらの選択割合は男性が積極的に結婚したいと思わない理由の首位に上がる項目の選択割合を超える値である。
繰り返しになるが、経済面が全てを解決するわけではない。しかし、経済的な理由で家族形成をあきらめる状況は政策等で救済されるべきであり、政策等で現状を改善できる要因とも言える。また、女性の家事や育児に対する負担感の強さによって家族形成に対して消極的な姿勢についても、近年の「女性の活躍」推進政策や昨年10月に施行された「出生時育児休業制度(産後パパ育休制度)」の効果が期待されるところであり、やはり同様に政策等での改善が可能なものだ。
足元では若者の雇用環境には追い風も吹いている。2020年から「同一労働同一賃金」の導入が進められ、正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇差の解消が進められている。また、冒頭でも触れたが、日本では構造的な人手不足によって若手人材の獲得競争が激化していく中で、コロナ禍後の需要も見据えて、これまで採用を絞っていた業種等でも新卒採用を積極化している動きもある。さらに、世界的なインフレを背景とした賃上げ機運の高まりに加えて、大企業では大胆な初任給の引き上げに踏み切るところも増えている。また、国際展開する企業等では優秀な人材獲得競争に向けて、欧米と比較した賃金水準の低さを是正するという狙いもある。
これらの背景には構造的な要因もあるため、短期的には多少の景気変動の影響は受けにくいだろう。しかし、今後の世界経済の停滞度合いによっては、再び景気に敏感な業種を中心に若者の採用計画を見直す動きもあらわれかねない。業績が低迷した際に優先されるのは、やはり既存社員の雇用維持であり、新卒採用は調整対象となりやすい。
少子化が想定以上に進む日本では、将来を担う世代の経済基盤の安定化は急務であり、景気に任せるのではなく、政策として強い方針のもとに継続的な取り組みが求められる。経済不安が強い世代に対しては大胆な経済支援などを講じることで、価値観を根底から変えていくことも重要だ。将来的に賃金が伸びていく、安心して働き続けられるという明るい見通しを持ててこそ、若者が家庭を持ちたいと考えるのではないか。