若年層の間で増加傾向にある非正規雇用。経済基盤が不安定なケースが多く、さまざまな問題に直面します。ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が非正規雇用による経済格差と家族形成格差について考察していきます。
求められる将来世代の経済基盤の安定化…非正規雇用が生む経済格差と家族形成格差 (写真はイメージです/PIXTA)

3―経済格差と家族形成格差…男性の年収と既婚率は比例、就職氷河期世代の中年で増える親と同居

1|男性の年収と既婚率の関係…年収既婚率はおおむね比例、年収300万円を超えると既婚者増加

男性の年収と既婚率は、おおむね比例関係にある(図表8)。比較的若い年代では年収800万円以上では、逆に既婚率が下がる状況もあるが、例えば、仕事が忙しく結婚相手を見つける時間がない、あるいは高収入という好条件から結婚相手を吟味しているということなのかもしれない。

 

【図表8】
【図表8】

 

一方で、各年代の既婚率は、25~29歳で23.6%、30~34歳で48.2%、35~39歳で61.5%(国立社会保障人口問題研究所「人口統計資料集(2022年版)」より未婚率を100%から差し引いた値)であり、いずれも【図表8】における各年齢階級の年収300万円付近に位置する。つまり、同年代でも年収300万円までは未婚者が同年代の平均と比べて多いが、年収300万円を超えると未婚者が減り既婚者が増えていく。つまり、結婚には「300万円の壁」がある様子が見てとれる。図2で見た通り、非正規雇用の男性の平均年収は年齢を重ねても300万円をやや上回る程度である。つまり、「300万円の壁」は単なる金額の多寡ではなく、将来を考えられる安定的な職に就いているのかどうかが影響しているのだろう。裏を返すと、不安定な就業環境は未婚化を促すということになる。

 

経済環境の厳しさは、未婚化だけでなく、結婚したとしても子どもを産み控えることにもつながる。国立社会保障人口問題研究所「第16回(2021年)出生動向基本調査」によると、夫婦の理想子ども数は平均2.25人だが、実際に持つつもりの予定子ども数は2.01人である。予定子ども数が理想子ども数を下回る理由の首位は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(52.6%)という経済的な理由であり、特に妻の年齢が35歳未満の若い層では、選択割合が8割程度を占めて高くなっている。

 

2|親と同居の壮年未婚者の状況…就職氷河期世代は既に中年に、増加する「パラサイト・シングル」

若者の経済環境の厳しさが増す中で、1990年代以降、経済的に独立ができないままに中年期を迎える者が増えている。総務省によれば、親と同居の壮年(35~44歳)未婚者数は増加している(図表9)。このうち、完全失業者や無就業・無就学者、臨時雇・日雇者などの特に厳しい経済状況にある者は、2016年で約2割を占める。また、親と同居の壮年未婚者の完全失業率は8.1%であり、同年代の平均(2.9%)をはるかに上回る。

 

【図表9】
【図表9】

 

なお、2016年以降は同じ形での統計の公表はないようだが、「令和2年国勢調査」によると、2021年の親と同居の壮年未婚者数は249万人(男性150万人、女性99万人)へと2016年と比べて減少しているが、これは少子化の影響で壮年人口自体が減少しているためであり(総務省「人口動態調査」より35~44歳人口は2016年1,748万人、2021年1,504万人で▲244万人)、壮年人口に占める割合は16.6%で2016年と同程度である。

 

ところで、「パラサイト・シングル」とは、学校卒業後も親元に同居し、基本的な生計を親に頼る独身者のことで、この言葉が登場した1997年当時は、基本的な生活を親に頼っているために、自分の収入を自由に使える経済的に余裕のある独身者と揶揄されていた。しかし、長らく続いた景気低迷の中で、パラサイト・シングルは希望通りの職に就けずに経済的独立が難しいために親元に同居する独身者と意味合いが変わっていった。

 

さらに、親世代が年金受給年代となることで、2010年には「年金パラサイト」という親の年金をあてにして生活するパラサイト・シングルを示す言葉が登場した(ユーキャン 新語・流行語大賞にノミネート)。世代間・世代内の経済格差に苦しみながら中年期を迎えた就職氷河期世代は、今まさに年金パラサイトの当事者であり、貧困高齢者予備軍と言える。