●植田氏は、物価目標の持続的・安定的な達成にはまだ時間を要し、緩和継続が適切と明言した。
●基調的な2%物価上昇の実現が見通せれば正常化へ、共同声明の物価見直しは、不要と判断。
●今回の発言は市場に配慮した安全運転の印象で国内市場の緩和修正観測を後退させる内容。
植田氏は、物価目標の持続的・安定的な達成にはまだ時間を要し、緩和継続が適切と明言した
次期日銀総裁候補で経済学者の植田和男氏への所信聴取と質疑が2月24日、衆議院議院運営委員会で行われました。以下、主な項目ごとに、植田氏の発言を整理します【図表】。
まず、2%の物価目標について、持続的・安定的な達成には「なお時間を要する」と述べ、現在の日銀の金融政策は「適切」とした上で、「金融緩和を継続」して経済を支え、企業が賃上げをできるような経済環境を整える必要があるとの見解を明らかにしました。
次に、量的・質的金融緩和、マイナス金利政策、イールドカーブ・コントロール(YCC)などの異次元緩和については、「デフレではない状況を作り上げた」と評価し、「様々な副作用を生じている」ものの、「必要かつ適切な手法」との判断を示しました。そして、「今後とも情勢に応じて工夫を凝らしながら、金融緩和を継続することが適切」と述べ、「物価安定の達成というミッションの総仕上げを行う5年間」にしたいと明言しました。
基調的な2%物価上昇の実現が見通せれば正常化へ、共同声明の物価見直しは、不要と判断
また、金融緩和の見直しについては、基調的な物価上昇率の「2%の実現が見通せる」ようになった場合、「金融政策の正常化に向かって踏み出すことができる」とし、異次元緩和の検証については、「必要に応じて検討あるいは検証を行っていきたい」との考えを明らかにしました。一方、政府との共同声明に記されている物価目標については、「現在の物価目標の表現を当面変える必要はないと考えている」と発言しました。
YCCについては、「YCCの将来については様々な可能性が考えられる」としたものの、具体的なオプションの是非に関するコメントは控えられました。また、大量に保有する国債や上場投資信託(ETF)の処分について、「国債を売却するというオペレーションに至ることはない」との見解を示し、ETFは「大量に買ったものを今後どうしていくのかは大問題」としつつも、具体的に言及するのは時期尚早と述べました。
今回の発言は市場に配慮した安全運転の印象で国内市場の緩和修正観測を後退させる内容
そして、マイナス金利政策については、「マイナス金利を含む低金利が、金融機関収益等に与える影響を通じて、金融仲介機能に悪影響を与えてきた可能性はある」ことを認めました。ただ、低金利環境が全体として経済を支えることで、企業の収益や借り入れ需要などにプラスの影響を与え、「金融機関にもまたプラスの影響が間接的に及んでいるという面もある」との考えを示しました。
植田氏は今回、金融政策について、①緩和継続が必要で出口はまだ先、②共同声明の物価目標の表現は変更不要、③マイナス金利政策は金融機関にプラスの影響もある、との見解を示し、異次元緩和の検証とYCCの修正には若干含みを持たせました。植田氏の発言は、市場に配慮した「安全運転」の印象でしたが、国内市場の緩和修正観測を後退させ、長期金利上昇圧力と円高圧力の低下、株価の下支えにつながりやすい材料になったと思われます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「日銀総裁候補・植田氏」の所信聴取と質疑からみえてきたこと【ストラテジストが解説】』を参照)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト