本連載では、税務署OBである著者が、一般人には知りえない税務調査の実態を説明します。今回は、税務署の調査官にはどんな「ノルマ」が課せられているのかを見ていきます。

税務調査官の立場を知れば、対策も練りやすい

資産家にとって最も気になる存在は、何といっても税務署の調査官です。彼らに目をつけられると、いろいろと厄介です。その厄介さは、別段やましいことがこちら側になくても変わりません。調査官たちは端からこちらを疑ってかかるからです。

 

「正しくない」ことを証明するより、「正しい」ことを証明する方が難しいという例は、世の中にたくさんあります。たとえば、刑事裁判でも「犯罪」の証拠をあげるより、「冤罪」の証拠をあげる方がずっと大変です。やっていない行為には証拠も何もないからです。

 

税務調査も同じです。調査官が「間違っている」と指摘することに対して、「いかに正しいか」を証明するのは、骨の折れることです。

 

けれども、調査官に対してビクビクしても、逆に目の敵にしても何も始まりません。相手と同じ土俵に立って勝負してしまえばペースをかき乱されて終わりです。それなら、争わずに上手につき合っていきたいもの。どうせ同じ金額を納税するなら、気持ちよく納めたいではありませんか。

 

そのためにはどうすればいいかというと、まずは調査官たちの置かれている立場を知ることです。彼らがどんな動機で、何を大切に考えて動いているのかがわかれば、対策も練りやすいというものです。受験と同じ“傾向と対策”というものです。

「増差」の額は税務調査官の「営業実績」

では、税務調査官はどんな動機を持って調査に来るのでしょうか? 答えはノルマの達成です。

 

税務調査官の査定は、増差(増減差額)によって決まります。増差とは税務調査の過程で税金を申告された額より多く集めてくることで、調査官の営業成績ともいうべきものです。

 

しかし、増差自体は彼らのノルマではありません。調査官たちにとってノルマになるのは調査件数です。年間の稼働日数から各調査官が処理すべき調査件数が決まります。

 

公務員なので実際にはノルマという表現はされません。また、目標件数に達しなくても罰則があったり、賞与がなかったりというペナルティーは課されません。ただ、調査官の意識としては、「最低限の件数はこなさなくては」という思いが強いのです。そういう意味で、調査件数がノルマと考えられるのです。

 

一方の増差は、ノルマをこなした上でのプラスαの評価と考えられています。調査官たちは調査件数というノルマをこなしつつ、増差という手土産を期待されているわけです。

 

調査官たちは、調査の結果から、1件当たりの事案にかかった調査日数と増差額を、上司に報告することになっています。1日の調査で1億円の増差がでるのと、10日で100万円の増差がでるのとでは、どちらが優秀と見なされるかはいうまでもありません。

 

そこで彼らはどうするかというと、10日で100万円しか増差がでなかった事案を調査日数3日として報告書をつくります。残りの7日は、多く増差がでた事案に割り振って辻褄を合わせます。

 

つまり、実際の調査日数と報告の日数はイコールではなく、増差がたくさんでている調査官ほど日数の調整が自在にできるということなのです。そういったことで、彼らはぜひとも増差を上げたいのです。

本連載は、2011年8月29日刊行の書籍『相続財産は法人化で残しなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産は法人化で残しなさい

相続財産は法人化で残しなさい

阿藤 芳明

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の税制は、今、法人の税負担を軽くして企業の動きを高め、その代わりに個人の資産家から税収を得る方向へ動き出しつつあります。まさに資産家いじめの税制が訪れようとしているのです。 そのような中、相続財産の中でも約…

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