前回は、税務署の調査官にはどんな「ノルマ」が課せられているのかを見てきました。今回も引き続き、調査官の昇進や1年の業務の流れについて紹介します。

熾烈な昇進競争にさらされている税務調査官

前回の続きです。増差以外のお手柄項目としては「重加算税対象額」や「資料の収集」があります。

 

「重加算税」は、仮装隠蔽によって納税額をごまかした場合に課せられるペナルティーです。うっかり単純な計算誤りをした時と、故意に脱税をした時とではその悪質さが違います。悪質と見なされたものにだけ重加算税が課されます。この重加算税をたくさん課税できると優秀な調査官ということになります。

 

「資料の収集」というのは、たとえばA社の調査を行った時に、取引先であるB社・C社とのやりとりの資料を収集してきます。すると、B社やC社の調査担当になった調査官たちは、その資料を参考にできます。さらに「重要資料せん」といって、不正を暴く証拠や裏付けになるような重要な資料を持ってくると、その調査官の評価は上がるでしょう。

 

個人の所得税や資産税の税務調査は少ないのに、法人税の税務調査が多いのは、納税者としての個人、法人の数に対して、法人税部門の調査官が個人課税部門の調査官より多いためです。そう考えると、法人ばかりが細かく調べられる理由がよくわかると思います。

 

ともかく、このように調査官たちは「件数」「増差」「重加算税対象額」「資料の収集」に縛られ、追い立てられています。増差が少ないのに調査日数が増加している調査官は目の色を変えて必死になってきますし、たっぷり増差があって調査日数に困っていない調査官は調査の深度をどの程度までにするかの余裕を持っています。

 

つまり、余裕のある調査官は「ついでにあれも調べよう」「こっちも調べてみよう」ということになり、しつこくつき合わされる羽目になることがあるので、それはそれで厄介な存在ではあるのですが。

 

また、調査官は、公務員とは思えない熾烈な昇進競争にさらされています。公務員の昇級は基本的に毎年1段階ずつ、順番に階級が上がっていきます。ただ、何年かに一度、特別昇級といって1段階飛ばしで階級が上がるチャンスがあります。すごろくでいえば、「2マス進む」みたいなものです。

 

どういう人が特別昇級できるかというと、勤務評定のいい人です。勤務評定は先ほどあげたお手柄項目によってつけられます、いや、つけられていると思っているという表現の方が適切でしょう。それがまた調査官の厄介さに拍車をかけているのです。もちろんそれだけで決まるわけではなく、人柄や業務への意欲、勤務態度、管理能力なども加味されます。

勤務評定の対象外の4〜6月なら・・・

調査官の業務の区切りは、毎年7月の人事異動からスタートで12月が仮締め、3月が本締めとなっています。最終的な勤務評定は3月末までの実績で決まります。つまり、7月から3月までが調査官が最もピリピリしている時期。逆に、4〜6月は勤務評定の対象外なので非常にのんびりしています。この時期は、いわば調査官たちにとって消化試合みたいなものです。

 

このことを知ってピンとくる人もいるのではないでしょうか。「では、調査官たちが、がんばらない4〜6月に調査があたるよう、法人税申告のタイミングを図るといいのでは?」。

 

そうなのです。法人税の申告期限は決算日から2ヵ月後です。そこから調査官の手元に回ってくるのが、さらに約2ヵ月後ですから、4〜6月に調査があたるようにするには……? ズバリの月を明かすのはあまりに品がないので、あとの計算は読者のみなさんにお任せします。

 

ただし! 増差がありそうな目ぼしい申告書が見当たらない月は、1ヵ月でも半年でも1年でも遡って調査をしますので、申告のタイミングだけで100%調査を回避できると思わないでください。ただ、可能性を高めることはできるのです。

本連載は、2011年8月29日刊行の書籍『相続財産は法人化で残しなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産は法人化で残しなさい

相続財産は法人化で残しなさい

阿藤 芳明

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の税制は、今、法人の税負担を軽くして企業の動きを高め、その代わりに個人の資産家から税収を得る方向へ動き出しつつあります。まさに資産家いじめの税制が訪れようとしているのです。 そのような中、相続財産の中でも約…

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