▼街道
ガタゴト……ガタゴト……
女騎士「うぅ……。またしても勢いに負けて仕事を引き受けてしまった……。あのダークエルフ、本当に大丈夫だろうか……?」
老練工房「女騎士さん、何ぶつぶつ言ってるんだい?」
女騎士「自分の押され弱さを呪っていたのだ」
老練工房「ははあ……押され弱さ、ね。そのアンニュイな表情から察するに、恋の悩みだな?」
女騎士「は? 鯉?」
老練工房「さては、あの銀行家さんのことを考えると夜も眠れねえな?」
女騎士「う、うむ。そうなのだ。月末までには答えが出るのだが……」
老練騎士「ひゅーっ! 月末に! お熱いねえ。……となると、あの注文は指輪なのかねえ?」
女騎士「注文?」
老練工房「おっと、口が滑っちまった。……じつは銀行家さんからうちの工房に注文があったのさ。俺はただの代理人だから、詳しい注文の内容は知らねえよ。だけど月末までには納品することになってんだ」
女騎士「その注文なら私も聞いている。帝都に着いたら受け取って、私が持ち帰ることになっている」
老練工房「なんだって? お嬢ちゃんに指輪を持ち帰らせるとは……。あの銀行家さんもずいぶん無粋な真似をするね」
女騎士「いや、まだ指輪だと決まったわけでは……」
老練工房「ははは! 照れるなって」
▼街道沿いの茂み
「お前ら、準備はいいな」
「親分、やつら、ただの流浪の民に見えますぜ」
「てめえの目はふし穴か? 馬車の金具をよく見ろ、王立商会の紋章が入っているだろ。……変装は上手いがツメが甘えな」
「親分、『ふし穴』って何のことで?」
「うるせえ、さっさと矢をつがえろ」
▼街道
老練工房「カマトトぶりなさんな。昔から恋のゴールは指輪と相場が決まってるだろう」
女騎士「鯉のグールは指輪? 話が見えないな」
老練工房「見えないも何も──」
女騎士「!?」
……ヒュンッ!
……カキィィィン!!
老練工房「ひぃっ」
女騎士「なんだ、ただの弩か。話を続けるが……」
老練工房「ば、バカ! 盗賊だよ!」
▼街道沿いの茂み
「お、親分! あの女、後ろから飛んできた矢を叩き落としやがりました!」
「な、何をビビッてんだ! まぐれに決まってらぁ!」
「で、でも──!」
「うるせえ! ちっと狂ったが計画続行だ! あいつら全員、丸裸にしてやれ!」
「うっす!」
「「うぉぉおおお」」
▼街道
王立商会「くそ~~! だから隊商と同行するのは気乗りしなかったのだ!」
老練工房「あ、慌ててててても仕方ねえよ! 金貨の1枚か2枚を渡せば……みみみ見逃してもももも」
盗賊団「ひゃっはー! ここがお前らの墓場だぁ!」
盗賊団「地獄で会おうぜぇぇえ!!」
商会・工房「「ひぃぃぃいい」」
女騎士「──てやっ!」
盗賊団「「「ギャー!!」」」
女騎士「せいっ!」
盗賊団「「「ヒャ~~ッ!!」」」
女騎士「とうっ!」
盗賊団「「「オタスケ~~!!」」」
盗賊団「「「ニゲロ~~~!!」」」
女騎士「なんだ、もうおしまいか? その程度では地獄には行けんぞ!」
老練工房「ふ~! 姉ちゃんのおかげで助かったぜ!」
女騎士「ふん。アークデーモンと戦うのに比べれば造作もない」
王立商会「アークデーモン」
老練工房「姉ちゃんは会計のプロフェッショナルだと聞いたが……いったい何者だ?」
王立商会「会計のプロは、武芸にも通じているものなのだな」
女騎士「」