▼6日後
女騎士「うぉぉおお! 広い、広いぞ! それに何という人の数だ! 今日は祭りか!?」
老練工房「帝都は初めてかい?」
王立商会「まったく、これだから田舎者は……」
女騎士「あの高い塔は何だ!」
老練工房「精霊教会さ」
女騎士「あの城は何だ!」
王立商会「国王さまの居城だ」
女騎士「ほえ~~~!」
王立商会「さっそくだが、我々の商館に来てもらおう」
老練工房「商会長さまに為替手形をお渡ししねえとな」
女騎士「そ、そうだった。はしゃぎすぎてしまったのだ……」
人夫「かわせてがた……って何です?」
女騎士「ふふふ。その程度なら私にも説明できるぞ!」
人夫「おおっ、お願いします!」
女騎士「為替手形とは、自分の負債をほかの誰かに支払ってもらうときに使う書類なのだ。……たとえば港街商会は、老練工房から工芸品を仕入れて、王立商会に海産物の加工品を販売している。けれど、この取引を現金で決済するのは危険だろう?」
人夫「現金が危険なのは……盗賊に襲われたりするからですか?」
女騎士「その通りだ。現金を運ぶと、旅の途中でヒャッハーされる危険がある。ならば、港街商会の代わりに、王立商会が老練工房に代金を支払えばいいはずだ」
カキカキ……
女騎士「もう少し詳しく話すと、港街商会は王立商会に売掛金がある。王立商会から見れば、港街商会に買掛金があることになる」
人夫「ふむふむ」
女騎士「また、港街商会は老練工房に買掛金がある。老練工房から見れば、港街商会に売掛金があることになる」
人夫「自分の売掛金は、相手から見れば買掛金になる……ってことですね」
女騎士「港街商会の視点で考えれば、『王立商会に老練工房への支払いをしてもらう』ことは、『王立商会への売掛金』を使って『老練工房への買掛金』を支払うということになる」
人夫「そんなことができるんで?」
女騎士「そのための為替手形だ」
カキカキ……
女騎士「出発前に銀行家さんがサインしていた書類……あれが為替手形だ。期日までに王立商会が老練工房に支払いをすると書かれている」
人夫「なるほど~」
女騎士「為替手形を振り出す者を『振出人』、支払義務を負う者を『名宛人』、支払を受ける者を『指図人』と呼ぶぞ」