▼銀行家の邸宅
幼メイド「おかえりなさいませ~」
銀行家「お仕事の首尾はいかがでしたか?」
女騎士「この港町は景気がいいのだな。これが回収してきたお金だ」チャラ…
幼メイド「この町は貿易でうるおっているのですよ~」
銀行家「……おや? 5千G足りないようですが?」
女騎士「それは……というわけで……」
銀行家「なるほど、中央市場の肉屋ですね」
女騎士「返済日には、まだ猶予があるはずだ」
銀行家「とはいえ子供だけで店を経営していると聞いています。少し心配ですね……」
女騎士「あの子たちが借りたお金を踏み倒すと?」
銀行家「いいえ。お金よりもその子たちの生活が心配なのです。精霊の御名において、あまねく人の子は平等な存在として生まれるはず。なのに、子供のうちから働かねばならないとは……」
幼メイド「だんなさまは変わった考えをお持ちなのですよ~」
銀行家「こら、口が過ぎますよ。そういえば今日の宿題はもう済んだのですか?」
幼メイド「ぷぅ~」
銀行家「ともかく肉屋に貸したお金は来月が期日です。その子たちは、月末までにお金を用立てられそうでしたか?」
女騎士「う、うむ」
銀行家「よかった! あのお金が返ってこないとマズいことになる……と、番頭が申しておりました。女騎士さんの言葉を聞いて安心しましたよ」
女騎士「うっ」
女騎士(あのダークエルフは自信満々だったが……)
女騎士(……しかし、商売に絶対はないとも言っていた)
女騎士(よし、ここは正直に告げよう!)
女騎士「じつは──」
幼メイド「だんなさま~、そろそろお時間では?」
銀行家「おっと、そうでした。お客様をお迎えしなければ」
女騎士「お客様」
銀行家「ええ。女騎士さんにも新しいお仕事をご依頼したいと考えています」
女騎士「誰が来るんだ?」
銀行家「3名の方がいらっしゃいます。港街商会、王立商会、老練工房それぞれの代理人です」
幼メイド「だんなさま~、おめしものをどうぞ~」
女騎士「その真っ黒な法衣は……!」
▼銀行家の邸宅、客間
港街商会「ああ、銀行家さん! お待ちしていました!」
王立商会「いつもご苦労」
老練工房「よろしく頼みます」
銀行家「みなさん楽になさってください。書類はこちらですか?」
女騎士「……まさか銀行家さんが『公証人』の資格を持っていたとは」
幼メイド「さすがはだんなさまなのです~!」
銀行家「ご紹介しましょう。こちらの港街商会さまは、うちの銀行のお客さまです。そして、王立商会さまと老練工房さまは、どちらも帝都の会社です」
女騎士「なるほど」
銀行家「そしてみなさま、こちらの女騎士さんは会計のプロフェッショナルです」
客たち「「「おおーっ」」」
女騎士「」
銀行家「港街商会さまは、老練工房さまから工芸品を仕入れておいでです。一方、この町で取れた海産物を、王立商会さまに販売していらっしゃいます」
港街商会「この町で作った魚の干物や貝の塩漬けは、帝都でも人気があるんですよ」
銀行家「この後すぐ、帝都に向けて隊商が出発します」
王立商会「荷馬車に商品の積み込みが終わりしだい、すぐに発つつもりだ」
女騎士「ここから帝都まで……片道6日はかかるな」
銀行家「急なお願いで恐縮なのですが、女騎士さんもご同行していただけないでしょうか?」
女騎士「は?」
港街商会「あなたは武芸の道にも秀でていらっしゃるそうですね。隊商の護衛をお願いしたいのです!」
女騎士「しかし私には肉屋が……」
銀行家「肉屋?」
女騎士「いや、その……」
人夫「ダンナさまがた、いつまで書類仕事をしているんです。こっちの準備は済みましたよ」
王立商会「よし、出発だ!」