【事例8】貸主が借家権の譲渡を承認しないテナントの事業を継承
【登場人物】
- A社:鰻屋の会社
- Bさん:A社の代表
- Cさん:A社2号店の店長
Bさんは40年前に資本金300万円でA社を立ち上げ、A社で取得した自宅兼店舗(1号店)で鰻屋を営み、10年後には駅ビルの一角を借りて2号店をオープンさせました。
その後30年が経ち、Bさんは引退を考えはじめました。A社の資産は預金額と負債額がほぼ同額なので、実質自宅兼店舗だけという状態でした。ですからBさんは、その物件を売却して老後の費用に充てたいと思っています。
問題は会社の引き受け手です。彼に子どもはなく、2号店の店長であるCさんがいますが、彼は1号店まで手が回らないので、2号店だけを引き継ぎたいと言っていました。
ところがテナントの貸主はCさんとの接点がなく、それゆえ「知らない人に店舗は貸せない」と借家権の譲渡に応じてくれません。このままでは自宅兼店舗を売却することができません。
困ったBさんは、知り合いの不動産会社から弁護士を紹介してもらうことにしました。弁護士が考えた打開策はこうです。BさんがA社から自宅兼店舗を「退職慰労金の給付」という名目で取得し、A社の株式をCさんに資本金300万円で売却します。要するにA社の経営権をCさんに譲って、営業は2号店のみで継続することにしました。これならばテナントの借主はA社のままなので、貸主は文句を言えません。
Bさんは株式の売却後、自宅兼店舗もその不動産業者に依頼して売却し、駅前の便利なマンションへ転居していきました。
なお、この事例は不動産業者の紹介で税理士とも協業し、よりBさんの満足度を高めることができました。BさんがA社の自宅兼店舗を「退職慰労金の給付」として取得したので退職所得控除の利用によって節税効果を得ることができたのです。
さらに取得後は自宅として売却できたので、居住用財産の特例が適用されて売却金に対する税金も節税することができました。
鈴木 洋平
LTRコンサルティングパートナーズ
理事