日本の金融教育は世界的にみると、圧倒的に遅れていると言わざるを得ません。例えば日本では、義務教育期間における金融教育の授業は、中学3年生時に1~5時間程度行われます。しかし、英国を例に挙げると、小学生は全学年を通じて金融を学習する機会が設けられています。年間2,000名以上の子どもたちに出張授業という形で金融教育プログラムを提供する盛永裕介氏は「子どもたちのお金に関する知識の低さは、将来のキャリア選択にも影響する」と指摘します。子どもたちが金融リテラシーを身に着けることで将来の選択肢をどのように広げられるか? 実際の事例をもとに解説します。
「貯蓄」から「投資」の時代へ。子どもの生涯年収に大きな影響をおよぼす、金融教育の実態をレポート (※写真はイメージです/PIXTA)

無理なく学ぶ「株式とは?」

次に、中学校社会科「株式会社と株主の権利」の復習を兼ねて、株式を持つ方法について考えていきます。株式とは何か? 株式が発行されるまでの道のり、株式投資の仕組みについて、講義しました。概念的な話であるため、具体例を交えて復習することで、生徒からは「中学生では理解できなかったけど、ようやく株式の意味を理解することができた」との声が上がりました。

【【ワーク2】】実際のデータをもとにした株式投資シミュレーション

【【ワーク2】】​では、株式投資のシミュレーションを行いました。日経平均株価のボラティリティ(価格変動の度合い)が高かった6年前にタイムスリップした前提で、「上場企業4社、任天堂、中外製薬、シャープ、ニトリのなかから、あなたの100万円をどの企業に投資しますか?」と問いかけ、生徒にワークシート上で予想してもらいます。

 

生徒から「100万円を分けて投資することは可能ですか?」と、分散投資をする前提の質問が挙がった際には大変驚きました。生徒の多くは「Nintendo Switchが発売されたから」「巣ごもり需要」などの理由から、「任天堂」を選択していました。

 

実際にその後の株価はどうなったのか、当時の株価チャートに動きをつけて見せると、生徒全員が関心を持ってワークに取り組むことができました。最後に、自分が投資した企業の株価はなぜ上がったのか? 反対になぜ下がったのか? を考察してもらい、株価の決まり方を学習しました。

「うどん一杯の価格が26円」の過去に生徒から驚きの声

2時間目は、株式以外の金融商品の特徴やリスク管理について考えました。まず、なぜ投資が必要であると言われているのか? 加えてインフレと購買力の関係性、現在の預金金利、人生で必要なお金の総額などを4択クイズで考えていきます。

 

特にインフレに関しては、過去70年の消費者物価推移4)を示すと、「うどんって26円で食べられたんだ…」「土地ってこんなに値上がりするんだ!」など、子どもたちも驚いた様子でした。生徒にとって過去の実数をもとにした話は、インフレが家計に与える影響について考えるきっかけになったようです。

 

「使う」「貯める」「増やす」、手元にあるお金を3種類に「色分け」する

次に、金融商品をどのような基準で選ぶべきかを考えました。人生100年をどのように生きたいかを想像してもらった後、独立行政法人労働政策研究・研修機構5)が示す生涯平均年収を示し、お金を貯めるだけではなく、「増やす」ことが重要であるとの認識を共有しました。

 

また、お金は「使う」「貯める」「増やす」という色分けができ、目的に応じて「安全性」「収益性」「流動性」の観点で金融商品を選択できることも学びました。