日本の金融教育は世界的にみると、圧倒的に遅れていると言わざるを得ません。例えば日本では、義務教育期間における金融教育の授業は、中学3年生時に1~5時間程度行われます。しかし、英国を例に挙げると、小学生は全学年を通じて金融を学習する機会が設けられています。年間2,000名以上の子どもたちに出張授業という形で金融教育プログラムを提供する盛永裕介氏は「子どもたちのお金に関する知識の低さは、将来のキャリア選択にも影響する」と指摘します。子どもたちが金融リテラシーを身に着けることで将来の選択肢をどのように広げられるか? 実際の事例をもとに解説します。
「貯蓄」から「投資」の時代へ。子どもの生涯年収に大きな影響をおよぼす、金融教育の実態をレポート (※写真はイメージです/PIXTA)

【ワーク3】「もし、自分が30歳で1,000万円をもっていたなら?」体験型シミュレーション

「金融商品の特徴」について、身近に感じる生徒は少ないため、まずは不動産や債券のしくみ、金融商品の特徴・性質・リスクを振り返りました。その後に「もし、自分が30歳で1,000万円をもっていたら、4つの金融商品(株式、不動産、債券、預貯金)のなかでどのような配分で投資しますか?」という【ワーク3】に取り組んでもらい、体験型の金融資産シミュレーションを行いました。

 

ワークを見てみると、株式や不動産に分散している生徒が多く、本日初めて知った債券へ投資をする生徒は少ない印象でした。【ワーク2】と同様に結果がどうなったのか、金融資産のチャートを示し、なぜ株式投資の収益性が高く、債券は値動きが小さかったのかなどを考察してもらうことで、生徒はリスクとリターンの関係性を学習しました。

 

多くの生徒は「リスク=危険性」と捉えており、リスクを「変動幅」と認識している生徒は見られませんでした。特性の違う金融商品のシミュレーションを示すことで、自分はこの変動幅に耐えられる心構えができるのか? 金融危機の影響を過度に受けない、資産配分ができているのか? などを確かめている様子でした。

 

このように、一方的に説明を聞くという受動的なスタイルではなく、自分の力で結果の根拠を考える時間は非常に重要です。自分なりに深く考察したからこそ、その後に分散投資の必要性を説明すると、生徒は納得しながら耳を傾けてくれます。

 

授業の最後には説話として、クレジットカードや投資詐欺、投資の心構えなど、成人する前に知っておくべき留意点について伝えました。生徒はまだ成人に満たない年齢ですが、近い将来に自分の身を守るためにも、真剣な表情で話を聞いていました。

「体験型シミュレーション」を取り入れる意義

今回の授業の目的は、基本的な金融商品の特徴を理解し、生涯を見通したリスク管理を考えることで、高校生で最低限身につけておくべき金融リテラシーを養うことでした。

 

生徒のワークシートからは、「投資するときはリスクコントロールを考えたい」「株式投資は少し怖いので、債券投資を検討してみたい」「自分の将来のために分散して投資することを考えたい」「甘い話に惑わされないようにリスクとリターンの観点で考えたい」などの感想を得ることができました。

 

子どもたちが金融商品の特徴やリスク管理の方法をより深く理解するためには、金融行動によるお金の増減を自分事として捉えられる、体験型シミュレーションが必要であると示された結果と言えるでしょう。

 

このような金融教育を展開することにより、生徒たちが成人し金融商品を選択する際に「自分の将来図」という観点から検討し、中長期的な資産形成・運用を行う能力が養えるのではないかと考えています。

 

出典:

1) 金融広報中央委員会「金融リテラシー調査(2022年)のポイント」,pp.3-13

2) 金融経済教育推進会議「金融リテラシー・マップ(2015年6月改訂版)」,pp.3-4

3)米経済誌フォーブス『世界長者番付2015年版』

4)総務省統計局「東京都区部の小売物価統計調査(主要品目の東京都区部小売価格)」

5) 独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2021」,pp.315