日本の金融教育は世界的にみると、圧倒的に遅れていると言わざるを得ません。例えば日本では、義務教育期間における金融教育の授業は、中学3年生時に1~5時間程度行われます。しかし、英国を例に挙げると、小学生は全学年を通じて金融を学習する機会が設けられています。年間2,000名以上の子どもたちに出張授業という形で金融教育プログラムを提供する盛永裕介氏は「子どもたちのお金に関する知識の低さは、将来のキャリア選択にも影響する」と指摘します。子どもたちが金融リテラシーを身に着けることで将来の選択肢をどのように広げられるか? 実際の事例をもとに解説します。
「貯蓄」から「投資」の時代へ。子どもの生涯年収に大きな影響をおよぼす、金融教育の実態をレポート (※写真はイメージです/PIXTA)

高校生が身につけるべき金融リテラシーとは?

成人年齢の引き下げにより、自己防衛という意味でも、若者はますます金融リテラシーを高めていく必要があります。投資詐欺や金融トラブルから身を守ることの他、どのように生涯を通じて資産形成を行なっていくのかも含めて、若年層から考えていく必要があります。

 

生徒が社会に出た後、金融トラブルを回避し、正しい金融行動をするためには、下記の5点を身につけることが必要です。

 

(1)金融商品(株式、投資信託、債券、預貯金等)の特徴を理解すること

(2)長期的に資産形成・運用に取り組む態度を養うこと

(3)リスク管理の方法を理解すること

(4)金融商品をめぐる消費者トラブルが生じる背景を理解すること

(5)消費者トラブルを回避するための態度を養うこと

 

こうした背景から、今回、私立高等学校(北海道)の2年生120名を対象に、高校生で最低限身につけておくべき金融リテラシーを養うための出張授業を行いました。「基本的な金融商品の特徴を理解し、生涯を見通したリスク管理をすることができる」という単元目標を掲げ、各クラス2時間の授業を実施しました。

 

まず、1時間目のはじめに私は「皆さんはお金持ちといえば“誰”を思い浮かべますか?」と問いかけました。生徒の多くから、日本の実業家である孫正義氏や米国の実業家であるイーロン・マスク氏、ビル・ゲイツ氏などの声が上がりました。

 

この回答を受け、さらに私は「いま名前が挙がった実業家たちはなぜお金持ちなのでしょうか?」と生徒に問いかけました。これに対して、うまく説明できる生徒はいませんでした。そこで、まずは1時間目の【ワーク1】、「株式を所有する意味について」考えてもらいました。

【ワーク1】「株式を所有する意味について」考えよう

まず「お金持ちになるためにはどのような方法がありますか?」と問いかけると、生徒から「仮想通貨を購入する」「YouTubeドリームを掴む」「宝くじを当てる」「社長になる」などの声があがりました。次に「日本と世界の資産家の共通点はなんでしょうか?」と問いかけると、「規模が大きい会社の社長」との回答が得られました。

 

しかし、社長だから資産家であるという認識は本当に正しいのでしょうか? 2011年のスティーブ・ジョブズ氏を例に挙げてみましょう。当時CEOを務めていたApple社の時価総額はランキングの最上位だったにもかかわらず、なぜ?彼のフォーブス世界番付3)は110位だったのでしょうか? この、一見矛盾しているかのように見えるポイントに関して真剣に考えてもらい、株式を所有することの意味を促しました。