日本の金融教育は世界的にみて圧倒的に遅れていると言わざるを得ません。日本では義務教育における金融教育の授業は中学3年生に1~5時間程度です。しかしながら、例えば英国では小学校の全学年で学習する機会があります。年間2,000名以上の子どもたちに出張授業という形で金融教育プログラムを提供する盛永裕介氏は、子どもたちのお金に関する知識の低さは将来のキャリア選択にも影響すると指摘します。子どもたちが金融リテラシーを身に着けることで将来の選択肢をどのように広げられるか? 実際の事例をもとに解説します。
小学生からスマホでキャッシュレス決済…お金の「価値」の見積りが低い子どもたちが、金融授業で初めて知ったこと (※写真はイメージです/PIXTA)

子どものオンラインゲーム課金のトラブルは増えている?

近年、スマホデビューの低年齢化が進んでいます。モバイル社会研究所の調査によると、2019年のスマホを持ち始めた平均年齢は約11.3歳でしたが、2021年は約10.6歳と、2年間で約0.7歳も低年齢化していることがわかります1)。より低い年齢の子どもたちがスマホを持つようになり、オンラインゲームに高額な課金をしてしまうトラブルが後を絶たません。小学生の子どもが親のクレジットカードを利用して、総額150万円以上課金をしていた事例もありました2)

 

オンラインゲームに関する相談件数においても、契約当事者が小学生・中学生・高校生であるケースは2016年には1,171件でしたが、2020年には3,723件と急増していることが分かっています3)。インターネットの普及やキャッシュレス化が進む4)現代社会において、子どもたちがお金の知識を正しく身につけ、その知識を適切に活用していくことが求められています。

キャッシュレス決済が進み、お金のイメージ漠然としている中学生たち

今回は、京都府の私立中学校の1年生170名を対象に、金融教育の授業を行いました。私が金融教育を企画・実施する際には、まず教職員の方に「児童・生徒に金融についてどのようなことを伝えてほしいですか?」と意見を伺っています。

 

今回授業実施予定の中学校教職員からは、「最近の児童・生徒は、お金の価値を感じなくなっている。キャッシュレス化が進んでいるからこそ、気をつけるべきお金のことを教えてあげてほしい。」という、お金の大切さに関する実感が希薄化している現状についての問題意識が挙がりました。

 

対して、生徒への事前アンケート(n=170)では「お金にどのようなイメージを持っていますか?(自由記述)」という問いに、「生きていくうえで必要不可欠」(38.24%)、「大切なもの」(11.76%)との結果となり、お金の役割や価値について、漠然とした印象を持っていることが分かりました。そこで、1時間目は「お金とは何かを理解する」2時間目は「お金との付き合い方を考える」という目標を掲げ、計2時間の授業を行いました。

自分は浪費家?倹約家?

1時間目のはじめに、自分のお金に対する性格について認識することにしました。1問1答形式(全10問)の問いに回答し、自分は浪費家なのか、倹約家なのか、もしくはバランスの取れたお金の使い方ができているのかを理解します。そのうえで、浪費家はお金の貯め方、倹約家はお金の使い方、バランスの取れた人はお金のリスクについて学べるよう、授業の目的を定めます。

 

次に、お金の役割について理解を深めます。

 

お金の3つの役割について、生徒たちに示します。

 

1)商品やサービスを交換する役割である「価値」
2)持っているお金が生む「信頼」
3)使う人や預ける人の気持ちを含む「想い」