2022年4月1日から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、2023年1月1日からは、18歳の成人は一般NISA・つみたてNISAでの投資が始められるようになりました。これを受け、高校生や大学生への金融教育がますます重要視されています。本連載では全国の学校で金融教育の出張授業を実践する盛永裕介氏が実際の授業内容をレポートします。
手取り14万…小学生が憧れる職業3位だが「稼げない国家資格職」を目指す若者たち、金融教育で劇的に大変身【証券外務員が指南】 (※写真はイメージです/PIXTA)

 美容短期大学で金融教育の出張授業――理想の将来を実現するための貯蓄計画とは?

筆者は、東京都の美容短期大学1年生130名を対象に、金融教育の講義を行いました。

 

美容師の平均給与は、厚生労働省による「令和元年賃金構造基本統計調査」によると年収は311万4,000円、平均月収は25万5,100円です。国税庁が発表した「民間給与実態統計調査」によると、日本全国の平均年収は443万円、平均月収は単純計算で36万9,000円です。年齢分布や地域分布をそろえた調査ではないため、一概には言えませんが、平均給与で全体を下回っていることが分かります。自分の進路と照らし合わせて将来設計を構築するための、金融リテラシーは必要不可欠です。

 

また、美容短期大学の学生は、将来的に独立開業して活躍することを目指す人が多いため、社会人として必要な金融知識を習得するだけでなく、経営者として収支の把握や予算作成といった経営に必要な資産管理のスキルを身につける必要があります。

 

美容師は2022年の「小学生の『将来なりたい職業』ランキングトップ10」(出所:FP協会)の女子児童の部門で第3位にランクインしています。現在の美容短期大生が金融リテラシーを身につけ、美容師という職業のスタイルを拡張することで、彼女たちの将来の働き方やライフスタイルが広がるかもしれません。

 

今回の講義では、なぜ資産運用が必要であるのかについて理解を深めたうえで、個人の収支管理に関するワークを行いました。また、社会に出る前に知っておくべき金融知識を習得することも目的としています。

 

その一環として、自分が理想とする将来を実現するには、どの程度の収入が必要で、どの程度の費用がかかるのかをシミュレーションしました。まずは自分が目指している職業・企業の平均月収を調査し、手取りの月収を目安で算出します。次に、将来実現したいことを書き出し、それを実現するためにいくらかかり、何年後に実現したいのか、実現するためには毎月いくら貯金をする必要があるのかを考えます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

考えるヒントとして、「子どもは欲しいか」「住宅を購入したいか」「ゆとりのある老後生活を送りたいか」…などライフイベントに関する質問に回答すると、それを実現するためには平均でいくらかかるのかがわかる補助教材を用いて進行しました。

 

次に、1ヵ月にかかる生活費を示し、毎月の貯金額面や自由に使えるお金はいくらかを計算します。多くの学生は、収支が赤字のシミュレーションとなり、「将来のやってみたいことを沢山書き込んでみたが、計算してみると莫大なお金になってしまった」「お金の事やこれからの貯金やかかる費用を考えたことがなかったので、実際に計算することができたりしていい経験ができた」との声があがりました。

 

最後に、自分のお金に関する課題を書き出し、その課題をどのように解決していくべきか考えます。解決策として、「美容師の給料だけではお金が足りなさそうなので、副業や投資を視野に入れる必要がある」「貯金すべきことがわかったので、今からコツコツ貯金する癖を身につけたい」との回答が多く見られました。

お金を増やすための3つの方法

お金を増やすためには、

 

①副業で本業以外の収入を得ること

②昇進や転職をして年収を上げること

③資産運用・資産形成をすること

 

などが挙げられます。

 

今回のテーマは『資産運用・資産形成』ですので、投資の仕組みやギャンブルとの違い、日米欧の家計における金融資産構成、単利と複利の仕組みについて学ぶことで、資産運用・資産形成について理解を深めます。次に、投資や運用への興味を持たせることを目的として、株式投資のシミュレーションを行いました。

 

調査(1)によると、短期大学における講義で株式の模擬売買を行うシミュレーションゲーム『株式学習ゲーム』を取り入れたことで、89.2%の学生が『以前より株式に関心を持つようになった』という結果が得られたため、今回の取り組みでも資産運用・資産形成への関心を高めることが期待していました。

ラクしてお金を稼ぐ方法はない?美味しい話にご注意

シミュレーション後、なぜ自分が投資した企業の株価が上がったのか、反対に下がったのかを考察し、株価の決まり方、リスクとリターンの関係性について学習しました。

 

特に、リスクとリターンについて、多くの学生はリスクと聞くと「危険」という意味で捉えていましたが、正しくは「将来に対する不確実性」という意味です。大きな収益を期待するにはリスクは大きくなり、小さな収益を期待するにはリスクは小さくなるため、「リスクが小さく、リターンが大きい」という金融商品は存在せず、一般的に「うまい話、美味しい話」と言われていることを解説しました。

 

昨今、「うまい話」を持ちかけた投資詐欺に関する相談件数が増えていることから、SNSでよく見かける投資詐欺の実例を交えて、投資詐欺から身を守るための方法、自分で判断できないときはどのように対処すべきかについてお話ししました。最後に、長期的な視点で分散投資を行うこと、そして定期的に積み立てることが投資成功のために重要であることを伝え、講義を終えました。