日本の金融教育は世界的にみて圧倒的に遅れていると言わざるを得ません。日本では義務教育における金融教育の授業は中学3年生に1~5時間程度です。しかしながら、例えば英国では小学校の全学年で学習する機会があります。年間2,000名以上の子どもたちに出張授業という形で金融教育プログラムを提供する盛永裕介氏は、子どもたちのお金に関する知識の低さは将来のキャリア選択にも影響すると指摘します。子どもたちが金融リテラシーを身に着けることで将来の選択肢をどのように広げられるか? 実際の事例をもとに解説します。
「他の職業の方が自分に向いている?」キャリア教育に金融教育を取り入れるべき理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

自己肯定感の低い日本の子どもたち

日本の子どもたちは、自己肯定感が低いとよく言われています。国立青少年教育振興機構によると、高校生に対して「自分はダメな人間だと思うことがあるか」と質問した結果、72.5%の高校生が「そう思う」と回答しています1)

 

また、内閣府は、日本の若者は諸外国と比較して、自分を肯定的に捉える傾向が相対的に弱く、自分に誇りを抱く若者の割合も低いと指摘しています2)

主体的な進路選択には環境づくりが大切

自己肯定感の低さは、子どもたちの進路選択にも影響を及ぼします3)。IT技術の進展やグローバル競争が激化する中、子どもたちは自分のキャリアを自分で考え、決めていかなければなりません。そのため進路選択では、自分の興味や関心、潜在能力などに見合った進路を見極めなければなりません。

 

しかし経済産業省によると、18歳未満で「将来の夢を持っている」と回答した子どもは60%しかいないことがわかっており4)、子どもたち自身が自分の個性や適性を自覚した上で、主体的な進路選択ができている可能性は低いと考えられます。

 

主体的に進路を選択するためには、自分がなりたい姿を見付け、それを実現するための行動を起こすことが重要です。また、金融広報中央委員会は「職業選択に関しても金融・経済の働きや現状を踏まえて考えさせることが大切である」との見解を示しています5)

 

つまり、自分の個性や適性を自覚できるキャリア教育に、長期的なお金との付き合い方について学習できる金融教育を取り入れ、なりたい自分を生徒が見つけられる環境づくりをしていくことが求められているのです。

職業選択理論を取り入れた金融教育への挑戦

この考えをもとに今回は、公立中学校(北海道)の1年生14名を対象に、進路指導の中心的な理論である「職業選択理論」を取り入れた金融教育の実践を行いました。1時間目は将来なりたい職業を見つけること、2時間目は夢を実現するために大切にしたいことを考えるという目標を掲げ、計2時間の授業を行いました。