2022年4月の年金制度改正により、これまで老齢年金の繰下げ受給は70歳まででしたが、4月以降は75歳まで引き下げられるようになりました。今回は、繰下げ受給をして「得する人」と「得しない人」の違いをFP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
年金の繰下げ受給はするべきか…「得する人」と「得しない人」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

繰下げ受給を最大限すると…

今回の改定で、公的年金の繰下げ受給は最大で120ヵ月遅らせ75歳からの受給が可能となります。繰下げ受給を行った場合には、受給額が1ヵ月ごとに0.7%増えます。75歳まで繰下げた場合は、120月×0.7%=84%増えることになります。たとえば令和4年の老齢基礎年金の満額6万4,816円の場合は、75歳から繰下げ受給をした場合、11万9,262円を受け取れることになります。

 

ただ、受け取りを開始しても、どれくらいの期間受け取れば、65歳から受け取った額以上になるのか気になります。65歳から受け取った場合、86歳11ヵ月のときには受取総額が1,704万6,608円となります。同じ86歳11ヵ月のとき、75歳から繰下げ受給をした場合は1,705万4,323円と、この時点で繰下げ受給をした受取総額が多くなります。実際には毎年年金額は変動しますので、前述と同じ数字にはなりませんが、この期間で繰下げ受給をした総額が上回ることになります。

 

老齢厚生年金は、現役時代の収入によって、年金の受取額が変動しますが、老齢基礎年金と増加率は同じですので、同じように86歳11ヵ月で受取総額が繰下げ受給のほうが多くなります。受取額だけをみると、この時点が分岐点になり、86歳11ヵ月以上長生きできる人であれば、繰下げ受給をしてもメリットがあるといえるのではないでしょうか。

 

しかし、老後資金を自助努力で準備できていて、65歳からや繰上げ受給をしても老後の生活にゆとりがあるようであれば無理をして繰下げ受給する必要はないのかもしれません。前項で確認した家計調査では社会保障給付が19万1,880円となっています。75歳で繰下げ受給をした場合は、年金受給額は35万3,060円となります。この額をみると前述のゆとりある老後生活費に近くなっていることがわかります。ただ、この額は夫の老齢基礎年金と老齢厚生年金と妻の老齢基礎年金の合計であることには注意が必要です。

まとめ

長寿国となったいま、健康で長生きしていくことが大切となります。年金の繰下げ受給は、今後の老後の生活費に対して、ゆとりある生活の希望になり得るのかもしれません。ただ、65歳から受け取った場合に比べ、メリットが享受できるのは86歳11ヵ月以降となります。今回は、年金額だけを考えてみましたが、現役時代から老後資金の準備を行うことで、年金と合わせてゆとりある生活が可能となります。健康な体と健全な資産形成を行いましょう。

 

 

 

吉野裕一

FP事務所MoneySmith

代表