2022年4月の年金制度改正により、これまで老齢年金の繰下げ受給は70歳まででしたが、4月以降は75歳まで引き下げられるようになりました。今回は、繰下げ受給をして「得する人」と「得しない人」の違いをFP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
年金の繰下げ受給はするべきか…「得する人」と「得しない人」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

50代で増える「老後のお金の相談」

子どもを大学に進学させ、卒業がみえてくると、子どもに掛かるお金への不安がなくなる時期になりますが、今度は老後の生活への備えについて考える人が増えます。老後のお金の相談も50代の人が多くなります。これまで住宅ローンの返済や子どもの教育費などにお金が回り、自分の老後生活のためのお金を貯めることができていないという人も多く見受けられます。

 

老齢年金の受給が始まるのは65歳からとなり、企業の退職年齢も徐々に65歳となってきています。昔と比べて、60歳になってすぐに年金生活ができなくなったいま、60歳を過ぎても働くという人は増え、さらには65歳を過ぎても働こうと思う人も増えてきているように思います。その背景には、2019年に老後2,000万円が不足するということが話題となり、幅広い年齢層で老後のお金について関心が高まったこともあります。

 

この2,000万円問題は、2017年の家計調査(家計収支編)のデータを用いて算出したもので、この調査によると65歳以上の高齢世帯の月の収入が20万9,198円に対して、支出が26万3,717円と5万4,519円の不足となり、65歳からの30年間で1,962万6,840円の不足となるという計算となります。

 

老後の生活費を資産形成を行って準備していくという方法もありますが、政府も長寿となったことで、年金制度の改正を行い、これまで老齢年金の繰下げ年金の上限を70歳としていましたが、2022年4月から75歳まで引き上げられました。

ゆとりある生活を目指すなら2,000万円では足りない

前項のデータでは、決してゆとりある生活ができるというものではなく、あくまでも最低限の生活を送るためのものにみえます。令和元年の生命保険文化センターの調査では、ゆとりある老後生活費は36.1万円というデータがあります。先ほどの収入から、このゆとりある生活を送ったとすると、月に15万1,802円の不足となり、30年間では、5,464万8,720円と約5,500万円の不足になることになります。

 

やはり早めの老後資金の準備も必要になってくると感じます。ただそうはいっても老後という時期を目前とした場合には、これから貯蓄をしていくにしても時間が短いという問題があります。老後資金の準備としてiDeCo(個人型確定拠出年金)を活用した方法がありますが、iDeCoは基本的には10年以上の運用期間が必要ですが、50歳からであれば65歳までの15年という期間があります。

 

ただし、iDeCoの加入条件として何かしらの年金制度に加入していることになります。企業に勤める人であれば、60歳以降も第2号被保険者として年金制度に加入しているため64歳まで掛け金の拠出もでき、公的年金の繰下げ受給に合わせ75歳からの受取が可能となります。自営業など第1号被保険者の場合は、60歳以降は任意加入被保険者であれば64歳まで加入することができます。公的年金の繰下げ受給とiDeCoの受け取り開始の年齢を遅らせることで、毎月の収入を増やすことも可能になることがわかります。