妻が脳梗塞で倒れ…介護のために「離職」を決断したAさん
<介護発生時のAさんの状況>
Aさん:52歳/製造業課長/年収1,100万円(手取り60万円/月)
妻:49歳/事務職/年収300万円
長女:24歳/会社員
長男:22歳/大学生
預貯金:2,500万円
住宅ローン残債:1,000万円
Aさん(62)は、介護によって自身の生活が破綻した。
10年前、Aさんが52歳のときのこと。妻が脳梗塞になり、一命は取り留めたものの右半身に強い麻痺が残った。Aさんは介護を余儀なくされ、当初は妻が入院していたこともあり有給休暇などを利用し病院通い。仕事を続けながら介護を行っていた。
しかし、約半年が経過したころ、妻が退院することに。在宅での介護が必要になった。
当時すでに長女は独立し社会人になっていたが、長男は大学4年生とあと1年分学費を支払う必要があった。また、住宅ローンも残債が1,000万円程度残っている。
しかしAさんは、それまで夫婦共働きで貯めてきた2,500万円程度の貯蓄から学費と住宅ローン返済のめどはたっていると判断。さらに退職金も入ってくると考え、悩んだ末勤めていた会社を退職した。
仕事を辞める決断をした背景には、「妻の介護で後悔したくない」という思いと、「会社に迷惑をかけられない」という思いが強くあった。
「仕事を続けながら介護」の難しさを物語るデータ
総務省「就業構造基本調査」によると、2017年に介護・看護を理由に離職した者(介護離職者数)は「9.9万人」であり、過去1年間に前職を離職した者の1.8%(介護離職率)に相当する。最近では女性だけでなく、働き盛りの50歳代の夫(男性)の離職率も上昇しており、離職者約9.9万人のうち、女性が7.5万人、男性が2.4万人となっている。
また、「介護離職ゼロ」を目指すことを目的に実施されたみずほ情報総研株式会社による調査結果※によると、「離職に至った原因(正社員の就業継続が難しかった理由)」上位は
・介護は先が読めず両立の見通しが困難だった
・自分以外に家族で介護を担う人がいなかった
・介護のために仕事の責任を果たせなくなった
・自身が介護にもっと時間を割きたかった
となっている。
※ 「介護と仕事の両立を実現するための効果的な在宅サービスのケアの体制(介護サービスモデル)に関する調査研究 」・調査期間:平成28年12月9日から12月14日
・調査対象:年齢は40歳~59歳。1999年4月から現在までに正社員として仕事をしているときに在宅介護をしなければならなくなった者。
また、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」によると、介護をしている人のうち、介護をしていることを会社に伝えている割合は「66.7%」。介護をしている割合が高い50代では70.0%と多く感じるが、言い換えれば「3~4割」の人は会社に伝えられていない状況にある。
特に責任感が強い人や、「周りに迷惑をかけられない」と考える人、不安定な雇用形態の人などは、会社に言えず“隠れ介護”となり、介護・看護問題を抱え込んだ結果離職につながってしまっているのではないかと推察する。