◆硬貨幣
通常は交換性を有する米ドルなどの通貨、いわゆるハードカレンシーを指すが、封城で行動が制限され物資が不足すると通貨は役に立たず、コカ・コーラ(可楽)が硬貨幣として注目されている。ただし、中国ではコカ・コーラの人気が高いのか、ペプシコーラ(百事可楽)ではだめだという。
◆団長
長期間の封城で生活物資の供給ルートが途絶える中、上海では地区ごとにグループ購入(団購)が組織化される現象が発生。そうした物資を横領する担当者がいる一方、どのような物資があり、またそれを運ぶ荷物車があるかなどの役に立つ情報を積極的に住民に発信し、住民のために団購をアレンジする者は自然とこう呼ばれるようになった。
◆一朵雲一条線、圧茬
感染防止、封城という面白くない話題でも、文学的な表現にしてみようという例。前者は「一筋の雲、一筋の線」で、オンラインビジネス、オンライン勤務が仕事や生産を再開する(復工復産)ための対応になっていることを指す。
これら対応に関連するオンライン(線上)、クラウド(雲)からこうした表現が出てきた。「圧茬(チャー)」は元来、農民が1つ1つ丹念に作付けしていくことだが、区域を分けて1つ1つ検査を実施し、段階的にウイルスを除去していくことをこう表現している。
◆時空伴随者
「時間と空間をシェアした者」。公安部門や電信部門が「濃厚接触者」を指す業務上の専門用語として使用し始めたが、一般的に使われるようになった。一定区域・時間内に感染者の携帯電話番号と同時に検出された携帯番号の持ち主が濃厚接触者として警戒リストに搭載される。日本で最近まで使われていたCOCOAに似たシステムか。
◆新冠一代
英語では「コロニアルズ」と呼ばれるパンデミック下で生まれた世代。「新冠」は「新型コロナ」。従来からある「千禧一代」、つまり1980~90年代に生まれた「ミレニアルズ」や、「Z世代」、つまり1995~2009年に生まれたZoomに代表されるインターネット世代に続くもの。
◆OMAKASE
日本料理店で客が使うフレーズとして中国でも知られているが、商品の供給網が途絶え、注文しても在庫がないという状況が多い中、「同程度の価格で、なんでもよいからあるものを送ってくれ」というケースが増えた。
◆方舱(ファンツアン)
冷笑話にも熱詞が使われている。
上海幹部がフランス政府の招待でパリを視察。凱旋門やエッフェル塔などを案内されたが、全く興味を示さず。しかしルーブル美術館に案内された時、幹部は突然、美術館の広さと配置に強い関心を示した。
幹部「パリの人口は確か1100万人だったか?」
フランス職員「その通り」
幹部「ああ、それでやっとわかったぞ。パリ住民1100万人は1つの方舱に集まり、それを共同で使っているということだな」
「方舱」はもともと臨時の仮設医療施設だが、体育館や展示場を改造して感染者を一時的に収容するケースが増え、パンデミックを象徴する単語になっている。
大量の新語が人々の思いを躍動的に表すことに
中国のある国語学者は、
①口語が社会の変化とともに絶えず変化することは当然で、書き言葉が口語の影響を受けて変化することも当然。たとえば五四運動の際のいわゆる白話(口語)運動では、口語から多くを吸収して現代の書き言葉が形成された、
②ただ書き言葉としての一定の規範や品格も要求される、
③したがって「有変」と「有度」、限度ある規範内で活力ある変化を求め、活力ある変化の中で限度ある規範を要求する姿勢を保てば、新語や熱詞発生をそう懸念する必要はないと主張している(2022年5月26日付環球時報評論)。
パンデミックを機に現れた大量の新語や熱詞がポストコロナでどうなっていくのか、予想はつかないが、この特異な期間を人々がどう捉えているかを躍動的に表していることは間違いない。
金森 俊樹