パンデミック対応で鮮明になった「清零・甩鍋・摆烂」
新型コロナパンデミック関係の新語、熱詞を見ると、まず2020〜21年に発生した「逆行者」がある。本来「逆行」は危険で否定的なニュアンスがあるが、自らの危険を顧みず新型コロナと闘う医療従事者を称賛する意味で使われている。
「甩鍋(シュアイグオ)」は米トランプ前政権が新型コロナは「チャイナウイルス」だと対中非難を展開したことを受け、人民日報などが感染に対応すべき自らの責任を他人に転嫁していると反論した際に使用したことがきっかけだ。慣用句の「背黒鍋」、黒鍋を背負うと自分の背中も真っ黒になる→他人の罪を背負うから、逆に鍋(罪)を甩(投げる)→責任転嫁となった。
厳しいゼロコロナ政策を巡る騒ぎでは「甩鍋」が目立つとの声が多い。「上からの命令でやっているだけ(奉命行事)」が言い訳になっている、しかし上は「そんな命令は出していない」といい、無責任状態になっている、当局は上海で起こったゼロコロナ規制に対する不満・抗議を示す敲鍋(鍋を叩く)運動が「国外(境外)勢力」の陰謀だと主張している、北京市が新型コロナ対策で導入したアプリ、「北京健康宝」が境外からサイバー攻撃を受けたと根拠不明のニュースを流したことなどだ。「境外勢力」は中国では一種の「政治亡霊用語」で、これがいわれ始める時は中国政治が閉塞状態にある時だとの指摘がある。
多くの国が規制を緩め「コロナとの共存」を模索する一方、中国が厳しいゼロコロナ政策を続けていることが妥当か話題になっている。
ゼロコロナを示す「清零」が当局発言、メディア、ネット上で頻繁に登場し、現在は「動態清零」といわれている。動態清零の具体策が都市(城市)封鎖を意味する「封城」。しかし中国当局は人々の反発を避けるため公式には封城とはいわず、「全域静態管理」「封控措置」「全面静黙」等々を使用。中国当局や官製メディアは欧米の「与病毒共存」、つまりウイルスとの共存戦略を、「世界のパンデミックへの対応が最終的に躺平になってしまってよいのか」「感染増加に対し躺平は無責任。感染防止の能力がないことを示すもの」と批判している(躺平は『中国、流行語が如実に示す社会の実情…〈パンデミック〉〈社会的ストレス〉がキーワード』参照)。
動態清零に不満を持つ多くの人々は、習近平氏が国家主席に就任した当初に多用した「中国夢」、また2019年の国民向け新年あいさつで使い、その後流行歌の歌詞にもなった「追夢人」に、自分たちは含まれていないと思うようになったといわれる。
また若者の躺平の傾向が強まり、さらに「摆烂(バイラン)」、「腐った(烂)ふりをする(摆)」→「自暴自棄になり、何かの目標に向かって努力することを止める」も熱詞に加わった。
習氏の清零への固執は、人々にかつて毛沢東が好んだ「人定勝天」を想起させている。「人は力を合わせれば(定)、どんな自然(天)の困難にも打ち勝つことができる」だが、毛沢東がその後、この号令の下で大躍進政策を進め、経済を混乱に陥れたことはよく知られている。
当局のパンデミック対応に対する人々の受け止め
以上の他にも、パンデミックを機に新語や熱詞が現れ、また伝統的な用語が新たな意味を持つようなっている。そこから、中国の一般の人々がパンデミックやそれに対する当局の対応をどのように受け止めているかが透けて見え、さらには、漢字文化を持つ中国の人々特有の機智をも感じ取ることができる。
◆应〇尽〇
2022年2月に当局が発表した感染防止対策文書の中でこの表現が多用され、人々が注目した。「应」は「应该」で「〇〇すべき」の意味。「〇〇すべきものはすべて〇〇する」で、たとえば「応検尽検」。「検査すべきものはすべて検査する」。この他、〇に「収」、「治」、「隔」などの文字を入れ、各々「収容」「治療」「隔離」を指す。
◆十字花転運
5月初、山東大学構内で学生1名の陽性が確認された後、省政府の一声で10数時間内に同大学教員・学生1.3万人以上が周辺4都市の施設に移送・隔離された。
当局作業の「高い効率性」を象徴するものだったが、同時に、同大学は2ヵ月以上前からキャンパスを鉄柵で閉鎖しており、それでも感染が発生したと厳しい規制の効果を疑問視・反発する声が挙がった。
アパートで感染者が出ると、まず感染者と同じ階(同一楼層)と同じ列の住民(同列居民)が隔離される(前者は接触の機会が多い、後者は同じ配管を使用しているとの理由)。その形が十字になることから、人々は厳しい規制を花弁が十字形に並ぶアブラナ科植物の十字花にたとえ、「十字花転運」と呼んでいる。