近年特に目立つ「キャッシュカード詐欺盗(窃盗)」
特殊詐欺については上述したが、近年特に増えているのが、そのなかの「キャッシュカード詐欺盗(窃盗)」という類型である。
相手をだましてキャッシュカードを取るのになぜ「窃盗」なのか、と疑問に思われるかもしれないが、「窃盗罪」は、被害者の意思に反してキャッシュカードを奪うという犯罪類型(刑法235条)なのに対し、「詐欺罪」は、被害者を騙すことにより、被害者を勘違いさせて、勘違いしている被害者の意思によりキャッシュカードの交付を受けるものである。この「被害者の意思に反するか否か」といところがポイントとなる。
たとえば、読者であるあなたのもとに、金融機関の職員を語る人物から「あなたのキャッシュカードが犯罪に使われています」と電話がかかってくる。当然、電話を受けたあなたは動揺するだろう。
犯罪者はあなたに対し、言葉巧みに「大丈夫です。いまから担当者を向かわせますので、あなたのキャッシュカードを封印すれば被害は防げます」と伝える。
そのあと、自宅に該当の金融機関職員を名乗る人物が訪問し、「あなたのキャッシュカードは、この封筒に入れてください。念のため、封筒に暗唱番号も書いておいてください」という。その後、犯罪者は「あなたがキャッシュカードの持ち主か確認するため、身分証と印鑑を確認させてください」といって、あなたを家のなかに戻らせる。
その隙に、犯罪者はあらかじめ用意していた偽カード入りの封筒とすり替える。あなたが戻ると、犯罪者は先ほどの偽カード入りの封筒をあなたに手渡すのである。
犯罪者はあなたの焦る気持ちに乗じ、キャッシュカードとその暗証番号を取得する。
ここで、あなたは勘違いをしているものの、犯罪者にキャッシュカードを渡す意思はない。つまり、犯罪者はあなたの意思に反してキャッシュカードを奪っているため、「窃盗罪」となる。こういう類型を「すり替え型」と呼ぶ。
もしもここで、犯罪者が言葉巧みに「いまから担当者を向かわせますので、大丈夫ですよ。あなたのキャッシュカードは、当金融機関が預かれば安心です」などと伝え、その後に訪問した金融機関の担当者を名乗る人物に被害者がキャッシュカードを渡したなら、犯罪者は勘違いの状態の被害者の意思によりキャッシュカードの交付を受けていことから「詐欺罪」が成立することになる。
騙し、価値のあるものを交付させるというのが典型的な詐欺のケースだが、そこから変容した犯罪も増えており、今後は一層の注意が必要だ。
現実的な救済は「されていない」というのが実情
特殊詐欺の被害が増え続けたことで、被害者に対する法的保護も充実してはいるが、それをもってしても、被害者は救済されていないというのが実情である。
不注意で自分の人生を棒に振ってしまうこともある。繰り返すが、高齢者がトラブルを回避するには「見知らぬ電話には出ない、なにかあったら家族や近隣住民、警察に相談する」といった簡単なことから心がけるしかない。「自分は犯罪には遭わない」という根拠のない自信は抱かないよう、切にお願いしたい。
山村法律事務所
弁護士 北畑 素延
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