グローバル化が進展するいま、離婚問題も国をまたいだものが増加している。しかし、外国人との離婚においてはそれぞれの祖国の法律が影響し、手続きは想像以上に複雑だ。それゆえに離婚をあきらめる人も少なくない。国際色豊かな横浜で、多くの離婚の案件を取り扱ってきた弁護士が解説する。

離婚率は高水準、国際結婚組はさらに加速

国際結婚する日本人が増えている。見渡せば、自分の友人知人のなかにも思い当たる夫婦がいるかもしれないし、読者自身も外国人の配偶者を持っているかもしれない。グローバル化が進展する世の中、これも当然の流れといえるだろう。

 

しかしながら、近年では日本人カップルの3人に1人が離婚するといわれているが、国際結婚の場合、それを上回る2人に1人が離婚している(e-Stat「夫妻の国籍別にみた年次別婚姻件数・百分率」)。

 

日本人夫婦の離婚理由として一番多く上がるのが「性格の不一致」だ。実際、離婚事件を担当すると、当事者双方の価値観や物事の考え方がずれていることが多く見られる。しかも、本人たちがそれに気づいていないケースもある。

 

国際結婚の場合はそれに加え、当事者の文化、生活習慣、言語が異なることから、双方の「すれ違い」に拍車がかかり、離婚率が増加しているのだと推察される。

 

とはいえ、そこで問題になるのが手続きの「面倒くささ」だ。日本に暮らす日本人夫婦でも大変なのに、国際結婚、しかも国をまたいだ場合の面倒さは日本で行われる離婚の比ではない。

 

以降、具体的に解説していく。

「印鑑登録証明制度」を持たない国での手続きは…

日本人のAさんが、アメリカへ海外赴任する直前、日本人の夫から離婚調停を申し立てられた。Aさんは「これから海外に行かなければならないのに、どうしよう」と不安に駆られる。

 

この場合は比較的簡単だ。Aさんは海外赴任しても、日本にいる弁護士へ依頼して離婚調停を進めることが可能である。Aさんのような海外赴任目前の方が配偶者から離婚調停を申し立てられた場合、コロナ渦にあるいまは、とくに出入国手続きも煩雑であることから、日本にいる弁護士への依頼が現実的だといえる。

 

財産の分割や不動産の名義変更等も、日本人が日本の不動産の名義変更をするのであれば、そこまで大変ではない。日本には印鑑登録証明制度があり、「やるべきこと」は明確だからだ。専門家も慣れている。

 

しかし、外国の制度は当然ながら日本と同様には行えない。日本のような「印鑑登録証明書制度」的なものは存在しない国もある。海外在住の日本人の方が、日本国内に不動産を保有しており、日本国内の不動産の名義変更をしようとする場合は、在住国の大使館や総領事館で、必要な証明書を発行してもらう必要がある。たとえばフランス在住の日本人で、日本にある不動産の名義変更をする場合は、フランス日本国大使館で「署名(及び拇印)証明」を取得する必要があるし、ロサンゼルスであれば、日本国総領事館で「署名(および拇印)証明」を取得する必要がある。

 

ちなみに相続の遺産分割協議でも同様だ。証明書の発行手続きや銀行の解約手続きは、国によってそれぞれ異なることは、知識として知っておく必要があるだろう。

国際裁判管轄の問題と準拠法に関する問題

国際離婚であっても、協議離婚の場合には、文書の送達等が問題にならなければ、裁判所の管轄の問題は表面化しない。

 

ただし、離婚協議が決裂した場合で、日本の裁判所の利用が必要となったときは注意が必要だ。夫婦の一方が外国籍の場合の離婚は、「日本の裁判所が裁判を行うことが可能かどうか」という国際裁判管轄の問題、「日本の法律を使うことができるかどうか」という準拠法に関する問題が生じる。以下、離婚訴訟の国際裁判管轄と準拠法に関してまとめる。

 

◆国際裁判管轄について

従来、日本においては、国際裁判管轄に関するルールについて明文した規定がなかった。これまでは判例の集積により、国際裁判管轄が認められるか決せられていたのである。筆者が法学部の学生だったときも、なぜこのような問題に条文がないのか不思議に思った記憶がある。

 

しかし、平成30年4月18日、人事訴訟法等の一部を改正する法律が成立。国際離婚訴訟事件について、日本の裁判所で審理・裁判をすることができるものが明文化され、平成31年4月1日より施行された(法務省ウェブサイト「人事訴訟法等の一部を改正する法律について」〈平成30年4月25日〉を参照)。

 

この改正により、国際離婚の訴訟提起する際のルールが明確になった(人事訴訟法第3条の2)。ただし、離婚訴訟の提起が当事者間の衡平を害する等一定の場合には、離婚訴訟が却下される場合もあるため(人事訴訟法第3条の5)、その点は要注意である。

 

◆準拠法について

さて、裁判管轄が日本の裁判所にあるといっても、どの国の法律を使うのかという問題が生じる。これを「準拠法の問題」という。

 

日本は離婚すると「単独親権」だが、アメリカや中国は「共同親権」になる。読者の皆さんも「共同親権」という言葉には聞き覚えがあるかもしれない。どういうことかというと、準拠法が日本法なら、離婚した場合に子どもの親権は単独親権となるが(民法819条第1項・第2項)、準拠法が海外の法律になると、子どもの親権が共同親権となってしまう場合もありうる、ということだ。

 

離婚の準拠法は、「法の適用に関する通則法」第27条及び同25条に規定されている。外国籍の方と結婚し、長年日本に居住している人の準拠法は日本になる。また、長年日本に住んでいる同じ外国籍の夫婦の場合は、出身国の外国法が準拠法になる。

 

しかしながら、国際裁判管轄や準拠法の問題をクリアして日本の裁判所で離婚判決が得られたとしても、その離婚判決が外国で認められるのかという問題は、依然として残る。

 

また、「日本人の配偶者」という資格で日本に在留していた外国人の場合、希望通り離婚が実現したら、在留資格を失うことになる。そうなれば、生活拠点も苦労して築いたコミュニティも同時になくしてしまう。回避するには在留資格の変更手続きを行う必要があるが、それとて簡単ではない。これらを考え、離婚に踏み切れず、つらい現状を耐えている人も多いのではないかと推察される。

 

国際離婚の問題に関する法制度は未だに煩雑で、ボーダーレスとなっていないのが現状だ。

 

いまはコロナ禍にあるとはいえ、今後も一層のグローバル化の進展により、人々の交流は限りなくボーダーレスとなるだろう。しかし一方で、「国による法律の縛り」は厳然として存在する。それにより立ち往生することも、希望や予想に反する結果になることもある。

 

希望する結果を勝ち取るには、その点を理解したうえで、慎重に対応していくことが必要である。

 

 

北畑 素延

山村法律事務所 弁護士

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