オレオレ詐欺をはじめとする「特殊詐欺」。存在が周知されてからかなりの年数が経過したが、被害は減らない。手口はさらに巧妙化し、2021年の認知件数は1万4461件、合計被害総額278億959万7000円。しかも、被害者の88.2%は65歳以上の高齢者だ。刑事事件を取り扱う弁護士が、令和時代の特殊詐欺被害の実情を解説する。

高齢者を狙う「特殊詐欺」の手口、10のパターン

「母さん、オレオレ。いま、交通事故を起こしてしまって。示談にするには、今日中にお金を支払う必要があるんだ…」

 

高齢者が犯罪者に大金を支払ってしまう、「オレオレ詐欺」。一般の人々に周知されてからかなりの年数が経過しているが、高齢者を狙った犯罪はいまなお多発している。

 

オレオレ詐欺は「特殊詐欺」の一類型に位置付けられている。特殊詐欺とは「犯人が電話やハガキ(封書)等で親族や公共機関の職員等を名乗って被害者を信じ込ませ、現金やキャッシュカードをだまし取ったり、医療費の還付金が受け取れるなどと言ってATMを操作させ、犯人の口座に送金させる犯罪(現金等を脅し取る恐喝や隙を見てキャッシュカード等をすり替えて盗み取る詐欺盗(窃盗)を含む。)のこと」(警視庁ウェブサイト)だ。

 

令和2年1月1日より、特殊詐欺の手口は、

 

オレオレ詐欺

預貯金詐欺

架空料金請求詐欺

還付金詐欺

融資保証金詐欺

金融商品詐欺

ギャンブル詐欺

交際あっせん詐欺

その他の特殊詐欺

キャッシュカード詐欺盗(窃盗)

 

の、10種類に分類された。

 

なお、警視庁・SOS47 特殊詐欺対策ページによると、2021年の発生状況は、認知件数1万4461件、合計被害総額278億959万7000円。被害件数上位の都府県は、1位東京都、2位大阪府、3位神奈川県、4位千葉県、5位埼玉県と、都市部に集中している。

犯人逮捕でも、取られたお金が戻る可能性は低く…

残念なことに、詐欺被害に遭っても被害金が還付されることは少ないのが実情だ。

 

銀行や警察に連絡し、振込先の銀行口座を凍結しても、犯罪者の携帯電話番号がすでに無効となり、犯罪者の情報自体が掴めず、泣き寝入りとなることが多い。仮に犯罪者が逮捕されても、犯罪者に対して有罪判決が下されるのみで、被害金が還付されないケースも多々ある。

 

悔しいことに、特殊詐欺の被害金は高額となるケースが多い。日本の高齢者は資産額が多く、しかも財産の多くは預貯金としている。富裕層でなくても、「アリとキリギリス」のアリのように、将来に備えてコツコツと貯金し、数百万円単位で銀行口座にお金を積み上げている人は珍しくない。

 

そうでなくても、高齢者の療養や手術目的の預貯金や、長年にわたって積み上げた老後資金等が一瞬で消失し、以後の人生設計がメチャクチャになってしまった…といった例は枚挙にいとまがない。家族を巻き込めばさらに悲惨だ。

高齢者の「焦り、不安に付け込む」悪質さ

会社以外の自然人を対象とする特殊詐欺において、高齢者(65歳以上)の被害者の割合は88.2%にも上る(警察庁:令和3年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について〈確定値版〉参照)。

 

犯罪者は、高齢者の感情を揺さぶる(驚き=オレオレ詐欺、喜び=還付金詐欺など)。そして、そこに生まれた焦りや不安に付け込む。

 

予防策として重要なのは、単純だが、見知らぬ電話に出ないことだろう。犯罪者は、ターゲットを見つけるため電話をかけてくることが多い。とくにひとり暮らしの高齢者は注意が必要で、本人の意識はもちろん、親族もよく目を配っておく必要がある。

 

見知らぬ電話に出てしまい、電話口の人間の言動が少しでもおかしいと感じたら、まず「その場で回答しない」という行動を徹底し、不明点があれば、家族もしくは近隣住民、警察に相談する。場合によっては、電話をその場で切る。

 

高齢者には、人への丁重な対応が習慣づいている人が多く、それに加え、孤独感から人恋しい気持ちを抱えている人もいる。そのため、相手を受け入れてしまいやすく、あからさまに疑いの言葉をかける、無遠慮に電話を切る、相手を拒絶するといった対応ができにくい人も多い。重要なのは、高齢者自身がそんな自分の傾向を認識しておくことだが、恐らく簡単ではないだろう。

 

そのため、取り敢えずは「疑問を感じたら、周囲の信頼できる人に相談する」ということを徹底するようにしてほしい、というのが犯罪事件を扱っている、現場の弁護士からのアドバイスだ。

 

そして、万一被害に遭ったら、速やかに警察に相談するべきである。振り込みを伴う詐欺の場合、警察とともに振込先の銀行等の金融機関に連絡しよう。場合によっては、犯罪者が逮捕され、被害金が還付される可能性もあるし、振り込め詐欺救済法により、被害回復分配金の支給を受けられるかもしれない。

 

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