(※写真はイメージです/PIXTA)

老化とは「抗えない生理現象」ではなく、「病」である…。今、医学の常識が一転しつつあります。WHOが2019年に採択した「IDC-11(国際疾病分類)」でも、明確に“老化”の概念が盛り込まれました。老化研究はどのようにして始まり、現在どの段階まで進んでいるのか。銀座アイグラッドクリニック院長・乾雅人医師が「細胞レベルで見る“老化の本質”」を解説します。

体内に残存し続ける老化細胞は生活習慣病をもたらす

古くから、細胞老化した細胞は周囲に炎症や発がん作用のある物質を放出することが知られています。2010年頃、各種状況を包括する概念が提唱され始めました。「老化細胞随伴症候群(Senescence-associated secretory phenotype; SASP)」です。

 

体内に残存する老化細胞は周囲に炎症性物質を放出し、結果的に、高血圧や糖尿病、脂質異常などの生活習慣病に至るのです。実は、メタボリックシンドロームでも、炎症による症候群という意味では一緒です。内臓脂肪として肥大化した脂肪細胞から、周囲に炎症性物質が放出されます。結果、やはり高血圧や糖尿病、脂質異常などの生活習慣病に至るのです。

 

生体内で起きている仕組みは、かくも類似しています。SASPのイメージも付きやすいのではないでしょうか?

 

ほか、動脈壁を構成する血管内皮細胞が老化細胞となった場合、周囲に炎症を起こし、線維化を経て動脈硬化を来します。あるいは、肺組織や気道に老化細胞が出現すると、周囲に慢性炎症が生じ、線維化が進行します。結果、呼吸がしづらくなり、医学的には拘束性障害(吸えない)や閉塞性障害(吐けない)を来すのです。さらに、コロナ後遺症は老化細胞の出現によるSASPが原因である可能性も指摘されています(大阪大学HP*参照)。

 

*参考:大阪大学微生物病研究所『新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染は細胞老化を引き起こすことで炎症反応が持続することを発見(原研がNat Aging誌に発表)』(http://www.biken.osaka-u.ac.jp/achievement/research/2022/167)

 

このように、老化細胞に伴う炎症が、身体内の各種で不具合を生じる原因となるのです。短期では、がん抑制機構として働く老化細胞が、長期では炎症に伴う症候群を発症する原因でもあったのです。

 

こうして、細胞レベルで見る老化研究は、「老化細胞除去薬(セノリティクス)」が主テーマとなっていきます。老化細胞を取り除けば、SASPを一網打尽にできるのでは? 個体の老化により発症する老年症候群(老化症との違いは前稿を参照)を一網打尽に治療し、人類が老化という病を克服できるのでは? そんな世界が見えてきたのです。

 

これは夢物語ではなく、現実の話です。2016年には、白血病の治療薬であるダザチニブと、ケルセチンというサプリメントの同時投与が、セノリティクスの臨床試験として実施されました。本邦でも、東京大学医科学研究所で研究されているGLS-1阻害剤が注目を集めています。数年以内に実臨床まで応用される、手に届く未来の話なのです。

次ページ医学はどこまで万能なのか?