(※写真はイメージです/PIXTA)

老化とは「抗えない生理現象」ではなく、「病」である…。今、医学の常識が一転しつつあります。WHOが2019年に採択した「IDC-11(国際疾病分類)」でも、明確に“老化”の概念が盛り込まれました。老化研究はどのようにして始まり、現在どの段階まで進んでいるのか。銀座アイグラッドクリニック院長・乾雅人医師が「細胞レベルで見る“老化の本質”」を解説します。

細胞分裂のたびに短くなるテロメアを延長できれば…?

テロメアとは染色体の末端に位置する、TTAGGGという塩基対の反復配列を意味します。telomereとは、ギリシャ語で「末端」を意味するtelosと「部分」を意味するmerosからなる言葉です。靴紐を保護するキャップ部分のようなもので、細胞が分裂するたびに、保護キャップであるテロメアが短くなっていく。いよいよテロメアが短くなり、より中枢にあるDNA(染色体)を保護することができなくなったら、細胞は老化細胞になり機能停止する、といった具合です。

 

では、このテロメアを延長することができたならば? 細胞はヘイフリック限界を突破し、無限に細胞分裂を繰り返し、生存することが可能なのでは?という仮説が成り立ちます。

 

こうして、テロメアを延長するテロメラーゼに対する研究が過熱します。これが『1回1億円点滴』の都市伝説の正体です。そして、不老不死を得た“細胞”が出現します。ただし、それはがん細胞として。

 

テロメラーゼによるテロメア延長は、細胞をがん細胞にする諸刃の剣だったのです。現在、テロメア研究は“老化”に対する研究としては一旦落ち着き、“がん”に対する研究としてより注目を浴びるようになっています。

老化細胞は「“がん細胞化”を防ぐ仕組み」でもあった

後に、実は、生体内ではテロメア長が十分残っているにも関わらず、老化細胞となる細胞の存在が判明します。丹念な観察の結果、抗がん剤投与や放射線被ばく、戦争や災害などの強いストレス等々に晒された場合に、生体内に老化細胞の出現が確認されるようになりました。昨今では新型コロナ感染症の際に、肺組織で老化細胞が出現している症例が確認されたとの発表もあります。

 

これが意味するところは何か? 実は、老化細胞に至る仕組みとは、むしろ、個体を防衛するための仕組みとも解釈できるのです。仮にテロメア長が十分残っていても、あまりに強いストレスでDNAの修復がうまくいかない場合、細胞分裂をすると“がん細胞化”する可能性が高いのです。そのような場合には、細胞はアポトーシス(細胞自殺)を来すか、老化細胞となって免疫細胞により除去されるのを待つことになります。生物個体にとって、非常によくできた仕組みとも言えるのです。

 

老化細胞の存在が判明し、個体が老化するに従って、その数が生体内で増加することもわかりました。老化細胞の生成数が増えれば増えるほど、除去し切れずに残存する老化細胞も増えます。では一体、生体内で残存し続ける老化細胞の役割は何なのでしょうか? リストラも辞職も免れた“老害社員”、窓際族のように、ただ存在するだけなのでしょうか?

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