本記事では、ニッセイ基礎研究所の坊 美生子氏が、高齢タクシードライバーが増加している現状と問題点について考察していきます。
高齢タクシードライバーの増加 (写真はイメージです/PIXTA)

2―タクシードライバーの年齢

1_年齢分布

(1)法人タクシー

国土交通省と一般社団法人「全国個人タクシー協会」(以下、全個協)によると、タクシードライバーのうち、法人タクシーは240,494人(2020年3月現在)*1、個人タクシーは26,049人(2022年4月現在)である。

 

まず全体の9割を占める法人タクシーについて、ドライバーの年齢分布をみていきたい。法人タクシー事業者の約8割が傘下に入る一般社団法人「全国タクシー・ハイヤー連合会」(以下、全タク連)によると、傘下のドライバーの5歳区分の人数と構成比は、2022年3月現在と、2020年3月時点では、図表1(3ページ)のようになっている*2

 

まず、最新の2022年3月末時点(青色棒グラフ)を見ると、20~30歳代は少なく、構成比はいずれも5%にも満たない。年代が上がるにつれて人数は徐々に増加し、5歳区分で構成比が全体の1割を超えるのは、「55~59歳」以降となっている。最大のボリューム層は「70~74歳」であり、全体の2割強を占めている。二番目に多いのが「65~69歳」であり、全体の2割弱を占める。「75歳以上」も全体の1割弱を占めており、人数は2万人近い。

 

2010年3月時点(緑色棒グラフ)から2年間の変化をみると、2020年3月時点では、構成比の山の頂点は「65~69歳」にあり、全体の2割強を占めていたが、2020年3月時点(青色棒グラフ)では大きく減少して2割を切り、代わって「70~74歳」が山の頂点になっている。また「75歳以上」の構成比も約2ポイント上昇した。その要因としては、コロナ禍に入って、乗務中の感染を恐れた高齢層のドライバーが大量離職したことと*3、高齢化が進んだことの二つがあると見られる。結果的に、現在のタクシードライバーの最大のボリューム層は「70歳代前半」の人達となっている。

 

次に、2022年3月現在の構成比を、地方ブロック別に見ると(図表1の下表)、「65~69歳」や「70~74歳」の構成比は、全国平均に比べて「北海道・東北」や「九州・沖縄」ではやや高い。「75歳以上」は、近畿、中四国では1割を超えている。全体的な傾向で見れば、地方では、よりドライバーの高齢化が進んでいると言える。

 

【図表1】法人タクシーのドライバーの年齢分布(2022年3月末現在)

 

*1:各法人タクシー事業者から提出された令和2年度輸送実績報告書の数字に基づく

*2:全タク連の集計データは、各都道府県のタクシー協会等による運転者証の発行数に基づくため、国土交通省の集計とは若干、乖離がある。

*3:東京交通新聞2021/08/23 東京交通新聞

 

(2)個人タクシー

個人タクシーの92%に当たる26,049事業者(2022年4月末現在)が加入する全個協の提供資料をもとに、筆者がドライバーの年齢を5歳区分で分布をまとめたところ、図表2のようになった。

 

法人タクシーと同様に、20歳代は全体の0%、30歳代は全体の1%にも満たない。年代が上がるにつれて人数と構成比が徐々に増え始め、「55~59歳」で初めて全体の1割を超える。「65~69歳」は全体の約2割、「70~74歳」は約3割で最多となっている。「75歳~79歳」は約1割にあたる2,130人、「80歳以上」は3.1%の815人となっている。

 

構成比で言うと、個人タクシーの担い手の主軸は、法人タクシーと同様、70歳代前半にある。75歳以上の構成比は法人タクシーをやや上回っている状況である。

 

【図表2】個人タクシーのドライバーの年齢分布

 

2_タクシー業界における定年と高齢者雇用の状況

(1)法人タクシー

次に、タクシードライバーを何歳まで続けることができるのかという、「定年」の制度について、みていきたい。

 

定年については、法人タクシーと個人タクシーで制度が異なる。まず法人タクシーは、ドライバーを雇用しているため、他の業種と同様に、高齢者雇用安定法が適用される。2021年度4月に同法は改正され、65歳までの雇用確保が義務付け(2025年3月末までは経過措置あり)、70歳までの就業機会確保が努力義務とされている。

 

逆に、上限年齢については法令では定めがない。2006年に、国土交通大臣の諮問機関、交通政策審議会の小委員会が、高齢のドライバーによる事故が増加しているとして、タクシードライバーの要件に上限年齢を設けるよう提言したことがあったが、実現しなかった*4。現在は、各タクシー会社が、自社の雇用管理制度や個人の状況等に基づいて判断している。

 

次に、現状での各タクシー会社の雇用制度の状況についてみていきたい。上述した「ハイヤー・タクシー業 高齢者の活躍に向けたガイドライン」によると、タクシー会社へのアンケート(2019年度に実施)の結果、「定年を定めている」と回答したのは78.5%、「定めていない」は19.3%、無回答が2.2%だった。定年を定めている場合の年齢について尋ねると、「65歳」が51.5%と最も多く、「60歳」が27.4%、「70歳」が8.1%などとなっていた(図表3)。

 

※定年があると回答したタクシー会社
【図表3】タクシー会社における定年の年齢 ※定年があると回答したタクシー会社

 

さらに、定年がある場合の雇用延長の上限年齢について尋ねると、「定めていない」が45.0%で最も多かった(図表4)。上限の定めがない職場では、ドライバー個人の運転技能や健康状態、意欲などを鑑みて、個別に判断していると見られる。

 

【図表4】タクシー会社における定年後の継続雇用の上限年齢

 

上限年齢に関する選択肢で、次に回答率が高かったのは「75歳以上」の20.6%だった。また、「70歳」が15%、「65歳」が11.5%——などとなっていた。従って、一部のタクシー会社では、雇用制度上は、75歳以上でも働き続けられることが分かった。

 

なお、全タク連によると、必ずしもドライバーが継続雇用の上限年齢に達していなくても、加齢の影響で運転技能やコミュニケーションなどに問題が生じ、乗客からクレームが入ったり、運行管理者による教育の際に不適切と判断したりした場合には、継続雇用を更新しないなどの対応をとるという。

 

*4:交通政策審議会陸上交通分科会自動車交通部会タクシーサービスの将来ビジョン小委員会報告書「~総合生活移動産業への転換を目指して~」(2006年7月)

 

(2)個人タクシー

個人タクシーの場合は制度上、「定年」が定められている。2002年の改正道路運送法施行に合わせて運用基準が変更され、個人タクシー業を開業する場合は、認可申請日時点で65歳未満と定められ、その後、更新(概ね3年ごと)が認められる期間は、75歳に到達する前日までと定められた。従って、個人タクシーで、現在75歳以上で乗務している高齢ドライバーは、2002年2月以前に認可申請した人に限られており、今後は大きく増えることはないだろう。

 

ただし、個人タクシーの「定年」を迎えた後に、法人タクシーに転職する事例もあるといい5、法人タクシーと個人タクシーで制度が異なることは課題を残している。