本記事では、ニッセイ基礎研究所の坊 美生子氏が、高齢タクシードライバーが増加している現状と問題点について考察していきます。
高齢タクシードライバーの増加 (写真はイメージです/PIXTA)

4―タクシードライバーによる交通事故の発生状況

1_タクシードライバーによる交通事故件数の推移

3では、高齢ドライバー全体の交通事故の発生状況についてみたが、ここからは、タクシーの高齢ドライバーの事故についてみていきたい。始めに述べると、タクシーによる交通事故のうち、ドライバーの年齢層別の公表データはほとんど存在しないため、補足資料として、関連するデータをみていきたい。

 

まず、タクシードライバー全体の交通事故の状況について述べる。警察庁によると、交通事故全体の件数は2021年に約30万件、死者数2,636人であるのに対し、タクシー・ハイヤーを第一当事者とする業務中の交通事故は同年に6,938件、死者数11人だった。2020、2021両年は、コロナ禍の影響で全体やタクシー・ハイヤーによる交通事故の件数と死者数が大きく減少したと考えられるが、2012年以降の10年間の推移を見ると、コロナ前の2019年時点では、全体の交通事故件数は約4割、死者数は3割減少した(図表8)。これに比べて、タクシーを第一当事者とする業務中の交通事故は、件数は4割以上減ったものの、死者数は減っていない。

 

ただし、タクシー・ハイヤーの交通事故について、ドライバーの年齢層ごとの分布は不明であり、高齢のタクシードライバーによる事故がどれぐらい発生しているのか等は不明である。

 

※2012年を100とした指数
【図表8】全交通事故とタクシー事故に関する件数と死者数の推移 ※2012年を100とした指数

 

2_ドライバーの健康起因の交通事故

交通事故の統計とは別に、国土交通省は、自動車事故報告規則に基づいて自動車運送事業者が報告した「重大事故」を「自動車運送事業用自動車事故統計年報」としてまとめている*8。それによると、近年の事業用自動車による重大事故の発生状況の特徴として、ドライバーの健康起因の重大事故が増加傾向にある。このうちタクシーについてみると、2019年は56人(対前年比10件増)で、2017年からは減少していたが、3年ぶりに前年を上回った(図表9)。

 

国土交通省によると、2013~2019年に事業用自動車で健康起因による事故を起こしたドライバーの疾病を集計すると、最多は心筋梗塞や心不全などの「心臓疾患」(15%)、次いでくも膜下出血や脳内出血などの脳疾患(13%)、呼吸器系疾患(6%)、消化器系疾患(5%)——などの順であった。脳疾患や心臓疾患は加齢によってリスクが上昇すると言われており、事業者による高齢ドライバーの健康管理が、より重大な課題となっていると言えるだろう。

 

【図表9】ドライバーの健康状態に起因する事故報告件数の推移

 

*8:ただし、同年報で報告されている「重大事故」には、死者や重傷者を出した事故、10人以上の負傷者を出した事故等のほか、疾病により運転を継続できなくなったもの(運転を中断したもの)を含む。

 

3_タクシー会社へのアンケート、ヒアリング結果

最後に、タクシー会社へのアンケート等から、現場が把握している状況について述べたい。全タク連が作成した「ハイヤー・タクシー業 高齢者の活躍に向けたガイドライン」では、タクシー会社へのヒアリング調査やアンケートの結果が報告されている。

 

それによると、まずヒアリング結果では、高齢ドライバーを雇用する際の不安について「高齢者にとって問題なのは、体力を維持すること、体調を崩さないように健康管理すること、動作が鈍ること、反応が遅くなること」、「車庫内でのアクセルとブレーキの踏み間違いによる物損事故や、体が硬くなるから車をバックさせる際の物損事故が増加している」との意見が出されている*9

 

またアンケートでは、高齢ドライバーを雇用する上での不安を尋ねると、「健康の不安」との回答は100%、「交通事故の発生」は84.3%だった。具体的には「注意が放漫になり安全確認が不十分。事故の発生が増える傾向にある」、「自過失事故の割合が高くなっている」「小さな接触事故が多い」などの意見が出されていた。事業用自動車に特定した高齢ドライバーによる事故の公表データは殆どないため、現場からのこれらの報告は、実態を表すものとして重要であろう。

 

*9:同ガイドラインで「高齢ドライバー」と表現する場合は、高齢者雇用安定法で雇用確保措置の対象となっている65歳以上のタクシードライバーを「高齢ドライバー」と記述している。