1―はじめに
高齢ドライバーが起こす重大事故の発生に社会的注目が集まり、都道府県警や各自治体が連携して、運転免許の自主返納を推進している。実は、公共交通であるタクシーでも、高齢ドライバーは増加している。タクシー業界ではもともと、学卒者の新卒採用が少なく、会社を定年退職した後に転職するなど、中高年で就業する人が多かったが、近年はドライバー不足の慢性化によって、高齢化に拍車がかかっている。
2で述べるように、人は、加齢によって、視力や、素早い判断・操作能力等が低下すると考えられており、実際に、75歳以上ドライバーに特定した死亡事故の発生割合は、75歳未満のそれを大きく上回っている。高齢になっても働き続けられれば、本人や家族の生活を支え、生きがいとなり、健康維持にもつながり、社会にも貢献できる。しかし、車を運転する限り、交通事故と隣り合わせであり、とりわけ旅客自動車運送業であるタクシードライバーの場合は、乗客の命を預かり、他の道路ユーザーやドライバー自身の安全にも重大な責任を負う。年齢特性に応じた業務の在り方、あるいは、業務に適した年齢幅について、議論が必要であろう。
世界に類を見ないスピードで高齢化が進む日本において、マイカーだけではなく、タクシーにも高齢ドライバーが増加する状況を迎え、今後、どのように道路や地域の安全を確保していくことができるだろうか。かつ、どのように、タクシーの機能を維持していくことができるのだろうか。本稿ではまず、現状分析によって問題提起したい。
なお、上述のように、警察庁の統計では、75歳以上でドライバーの死亡事故発生割合が特に高まることや、道路交通法(以下、道交法)では新認知機能検査や運転技能検査の対象が75歳以上とされていることから、本稿では、特に記述のない限り、75歳以上のドライバーを「高齢ドライバー」と称する。