年間10万人が「介護」を理由に退職…肉体的にも精神的にも経済的にも追い詰められている
ところで、介護者の日々の生活費などは、どのように賄われるのでしょうか。ひとつの選択肢が、要介護者の年金。厚生労働省『令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金を受け取る元・会社員の年金受給額は平均月14万6,145円。男女別にみていくと、男性で17万0,391円、女性で10万9,205円。また自営業者の場合、受け取れる年金は2022年、満額で6万4,816円となっています。。
さらに介護者の貯蓄という選択肢も。厚生労働省『令和元年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業/労働者調査』では、介護離職者経験者に離職前の費用負担について尋ねていますが、それによると31.8%が「負担していない=親が負担している」と回答。つまり7割近くの人が、離職前にすでに経済的支援をしているのが現状です。
【介護離職者「父母の手助・介護について負担している費用」】
生活費:41.4%
介護用品の購入費:34.6%
施設・病院の利用料:33.7%
手助け・介護他のための交通費:32.8%
介護サービスの利用料:27.8%
その他:9.5%
負担していない:31.8%
出所:厚生労働省『令和元年度 仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業/労働者調査』より
仮に75歳以上の親の介護で離職となると、年齢は50代でしょうか。厚生労働省『令和3年賃金構造基本統計調査』によると、日本のサラリーマンの平均年収は推定546万円。50代前半で671万円とピークに達します。そんな年収を捨て、親の介護に専念するわけです。一方貯蓄はというと、50代で1,775万円(総務省『家計調査 貯蓄・負債編』より)。ただこれは平均値であり、他調査では600万~700万円程度が中央値とされています。
親の年金だけで子どもの生活費まで賄うのは難しいでしょうから、親子の貯蓄を取り崩しながら、二人三脚で生活していく……それが介護離職者親子のよくあるパターンです。そんな現実に、前述の調査では「仕事を辞めた後の自身の変化」を尋ねています。それによると「負担が増した(「非常に負担が増した」と「負担が増した」の合計)」の回答が、精神面と肉体面で過半数、経済面では7割近くにも達しています。
公益財団法人生命保険文化センターの調査によると、過去3年間に介護経験があるひとが経験した介護期間は、平均4年7ヵ月。なかには介護生活が10年以上にも及ぶ場合もあります。その間、肉体的にも精神的にも経済的にも、大きな負担を背負わなければならないわけです。
そんな介護離職者、そもそもなぜ仕事を辞めなければならなかったのか。最も多いのが「仕事と手助・介護の両立が難しい職場だったため」で59.4%。「手助・介護をする家族・親族が自分しかいなかったため」が17.6%と続きます。家族の介護が必要になった際、勤務先にそのサポートとなる制度等あれば……こんなに苦しい思いをすることはなかったのかもしれません。