米国で超富裕層を相手に活躍する税理弁護士から学ぶ、資産防衛策のヒント。今回は、世界の富裕層が米国に移住をする際にどのようなビザを活用しているのか、シミュレーションをまじえてみていきます。

3人の日本人…「E2ビザ」か「EB5」か?

初期投資額は、E2ビザとEB5、双方とも支払える能力があると仮定し、具体的にどのような状況でどちらのビザが向いているのか、実例を踏まえてみていきます。

 

Aさん

シンガポール在住でシンガポールと日本で法人を経営、日本国籍保有。米国へ事業進出を検討しており、米国のビザの取得も行う予定。扶養家族はなし。

 

Bさん

日本で会社経営、米国への事業進出を考えて移住を検討しているが、何年住む予定かはわからず。子どもはまだ小さく、未就学児が3人いる。

 

Cさん

日本で会社役員。定年後、米国との2拠点生活でQOLを高めたいと考えている。大学進学を控える10代の子どもが2人おり、米国の大学も視野に入れている。

 

3人のような方でカギとなるのが「課税」と「扶養家族の存在」です。まずは米国で課税が行われる場合の条件を見てみましょう。

 

米国での課税の基準は、「永住権、及び市民権を保有している」こと。また「暦年の実質的在住日数テスト(Substantial Presence Test)」を満たしていれば、税法上、米国居住者とみなされ課税されます。このテストをクリアするには、当年度の31日間に加えて、当年とその直前の2年間を含む3年間のうち、少なくとも183日間、米国に滞在していることが条件です。この183日間は、「当年に滞在した全日数」「当年以前の最初の年に在籍した日数の1/3」「前年度までの1年間に在籍していた日数の1/6」が対象です。

 

課税の観点では、永住権を保有しているだけで米国での税申告が世界のどこに住んでいても必要となるので、不利に思えるかもしれません。

 

しかし連邦税額は37%ですが、在住する州によっては州の課税額は0%です。また詳細はまたの機会としますが、S-Corporationという会社税務の選択を行い、所得税を大幅に減らしたり、米国で不動産の減価償却を使って所得を減らしたりすることも可能です。つまり、一概に米国での課税が悪いというわけではなく、工夫の仕様によっては、米国での実効税率を大幅に下げることができます。

 

Aさんの場合はより実効税率の安いシンガポールに在住しており、事業のために米国に在住したいのであれば、E2ビザのほうがより自由度が高く、さらに米国に住む必要がなくなれば、米国での事業収益はパススルー課税を選び、米国内での課税がかからないように設定すればいいでしょう。つまりAさんの場合は、米国で永住権を取得するメリットは小さいといえます。

 

一方で日本で事業を行い、今後、日本と米国での課税を検討した場合、米国での実効税率は工夫によっては低くなる余地が大きいです。

 

次に「扶養家族がいる場合」についてみていきましょう。主に扶養家族への影響で重要視されるポイントは以下の3点です。

 

1.教育

日本で生活をしながら英語の教育環境を用意するには、かなりの費用がかかります。一方、E2ビザで米国に長期滞在したり、永住権を取得したりして、子どもを地域の公立学校に通わせたら、幼稚園から高校までの学費は無料になります。大学の学費は日本と比較して高くはなりますが、州立大学などの場合、その州に進学直前に一年以上在住していれば、州外の学生に比べて半額以下の学費となる場合が多いです。

 

子どもの教育を考える際にE2ビザでは5年ごとの更新が保証されていないことにストレスを感じる、子どもの環境の変化などを懸念する、という方もいるので、個人によって最適解は変わってくるでしょう。まずは手続き期間の短いE2ビザで米国に移住し、その後、EB5を使って永住権を取得する方もいます。

 

2.扶養家族のビザ

E2ビザでも永住権でも配偶者の就労は可能で、一定の就労の自由は保証されています。ただ大きく差が出るのが配偶者以外の扶養家族の就労です。

 

たとえばCさんのように子どもが大学進学を控える年齢であれば、米国の大学を卒業した後にも米国での就労がオプションにあるというのは、魅力に感じることでしょう。

 

米国では新卒の給与水準も日本とは比較できないほど高く、技術職などであれば初年から年収が1,000万円を超えることも珍しくありません。また一般の就労ビザ(H1B)の難易度は、年々高くなっています。スポンサーとなることを敬遠する企業も多く、永住権を持っている人を優先する傾向にあります。米国での就職を少しでも考えているなら、永住権取得を検討するのがいいでしょう。

 

3.相続・贈与

日本では10年以上国外に在住している場合でないと、海外資産に贈与税が日本の税率でかかります。一方で米国では非課税で相続できる資産は$12.06M(16.2億円)にのぼり、生前贈与もその非課税総額から差し引かれます。もちろん在住している州や資産のある州によって追加で州からの相続税課税はあり、現在の計画では2025年にはおおよそ$6.2M(8.3億円)まで非課税総額は下がる予定です。それでも多くの方にとっては、この高い非課税枠は大きな助けとなると考えられます。

 

また米国での相続にはさまざまな対処法があり、それぞれの状況に合わせて活用するといいでしょう(関連記事:『なぜイーロン・マスクは「7,900億円相当のテスラ株」を寄付したのか?』

 

上記の課税及び扶養家族への影響などを踏まえたうえで、BさんとCさんの場合は永住権の取得をした方が総合的に有利になる場合があります。

 

今回は経営者の目線から米国へ移住する際のビザで、特にE2とEB5に的を絞って紹介しました。実際の人物像を自身と重ね合わせ、どのビザ・永住権を申請するか、検討してください。

 

 

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