「認知症高齢者、信じられない高温の中で平然と生活…」水分補給だけではない、「正しい熱中症対策」【専門医が解説】

岡田 有史
「認知症高齢者、信じられない高温の中で平然と生活…」水分補給だけではない、「正しい熱中症対策」【専門医が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

猛暑もピークに差し掛かってきた昨今。通説となっている熱中症対策は、じつは間違っているかもしれない─。特に「認知症の高齢者が孕む危険性」など、熱中症に関する正しい知識を、内科医で日本スポーツ協会公認スポーツドクターの岡田有史医師に解説いただきます。

発汗により失われる「水分以外」のもの

発汗により失われるのは水分だけではありません。しょっぱいことからもわかるように、汗にはナトリウム(塩分)やカリウムなどのさまざまなミネラルが含まれます。ですので、暑い環境で大量の汗をかくような場合では、水分だけでなくミネラルも適切に補給する必要があります。ミネラルの中で、脱水や体温調節にもっとも関わるのがナトリウムになります。そこで、発汗により失われる水分だけでなくミネラルも補給するための飲料が、いわゆる「スポーツドリンク」です。

 

スポーツドリンクに明確な定義はありませんが、「運動や日常生活での発汗によって体から失われた水分やミネラルを効率よく補給することを目的とした飲料(wikipediaより引用)」というのがわかりやすいかと思います。よって多量の汗をかくような状況では、スポーツドリンクによる水分補給が望ましいということになります。

 

市販のスポーツドリンクにはかなりたくさんの種類がありますが、共通点は塩分濃度が概ね0.1~0.2%に設定されていることです。これは、発汗により失われるミネラルの代表がナトリウムであり、ナトリウムの喪失は脱水や体温上昇に直結するためとなります。ちなみにナトリウム以外のミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなど)の含有量は商品によって異なります。

 

市販のスポーツドリンクでは、ミネラル以外にも炭水化物量およびエネルギー量も商品ごとに大きな違いがあります。私が調べた30種類の市販されているスポーツドリンクでは、100ml当たりの炭水化物量は0~8.5g、エネルギー量は0~34kcalという範囲でした。

糖尿病、高血糖の人は要注意「ペットボトル症候群」とは

皆様の中には「血糖値が気になる」、「糖尿病で治療している」方もいるかと思います。スポーツドリンクに含まれる炭水化物としては、砂糖、ぶどう糖、異性化糖(果糖ぶどう糖液糖など)が多く、特にエネルギー量の多いものでは血糖値に与える影響が少なくありません。

 

暑い環境では水分およびミネラルを補給するためにスポーツドリンクをうまく活用するのが良いのですが、血糖値の高めの方や、糖尿病で治療中の方では注意が必要です。砂糖や異性化糖を含んだスポーツドリンクを大量に飲むと、特に糖尿病の方では血糖値が一気に上昇します。すると、脱水状態にもかかわらず尿量が増え(高血糖による浸透圧利尿と言います)、喉が渇きスポーツドリンクを飲むことで血糖値が更に上がるという悪循環に陥ります。これを「ペットボトル症候群」と言います。

 

ペットボトル症候群の状態になると、意識状態が悪くなり入院が必要になったり、血糖値をコントロールするためにインスリンによる治療が必要になったりするため、熱中症は予防しつつもペットボトル症候群は避けたいところです。

 

ペットボトル症候群のリスクを少しでも下げるためには、急激な血糖上昇を避けるため、水分補給はこまめに行うことが重要となります。スポーツドリンクを一気に飲むと血糖値への影響が大きくなります。

 

スポーツドリンクを選ぶ際に少しでもカロリーの低いものを選ぶことも重要となります。スポーツドリンクの中には0カロリーのものがありますので、それらを選ぶことで血糖値への影響をより少なくできると思います。ちなみにそこまで汗をかかない状況であれば、冷たい水やお茶による水分補給でも十分熱中症予防になると思います。

 

最後に、近年耳にすることの多い「経口補水液」についても少し解説したいと思います。経口補水液は、既に脱水状態である場合に速やかな脱水改善を目的とした飲料であり、汗の成分に近いスポーツドリンクとは異なり、より体液に近い組成に設定されています。

 

具体的な特徴としては、「塩分濃度が0.2~0.3%、糖質は少なめ、低浸透圧」などがあり、とにかく吸収効率、脱水補正を優先した組成であることがわかります。よって経口補水液の使いどころとしては、脱水気味の時に少しでも水分の吸収を優先したい時に使うのが望ましいでしょう。

 

熱中症の予防と水分補給の際の注意点について書かせていただきました。以上の内容を参考にしていただき、この夏を安全に乗り切っていただければ幸いです。

 


岡田 有史

総合内科専門医

日本スポーツ協会公認スポーツドクター

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